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新たな爆弾

 自分の国を作る。

 人間とモンスターが手を取り合い、争いのない世界を創造する。

 それは言うまでもなく(いばら)の道だ。


 いくらセレスティアが仲間に加わったとはいえ、シュンに政治的な知識はない。ロニンも魔王の座に就いてはいるが、まだまだ未熟な部分が多い。

 それでも、誰かがやらないと始まらない。さもなくば、永遠に人間とモンスターは敵対することになってしまう。


 ーーなら、俺がその道を歩いてやるまでだ。俺が王になる。


 シュンはひざまずく部下たちを見下ろしながら、決意を確固たるものにした。これからは俺が彼らの指導者となるのだ。


 シュンの腕のなかでロニンが呟いた。


「でもびっくりしたよ。お兄ちゃんがそんなこと言い出すなんて」

「……はっ、誰のせいだか」


 以前のシュンであれば、みずから建国するなど考えもしなかっただろう。そんな面倒くさいことはまっぴら御免である。


 だけど。

 変わったのだ。

 目の前にいる少女のおかげで。

 他人と関わることを拒絶していたシュンを、この頼りない娘が変えたのだ。


 なんのことはない。たしかに四ヶ月前、シュンはロニンを助けた。彼がいなければ、いまごろロニンは前代魔王によって亡き者にされていたかもしれないのだ。

 けれどもその実、助けられていたのはシュンのほうだった。彼女のおかげで、シュンの人生に花が咲いたともいえる。


 もちろん、シュンにとって一番の生き甲斐は《引きこもり》である。そこの部分は変わらない。もし建国が成功した暁には、思いっきり引きこもりたいとシュンは願っている。


「まったく……貴様という奴は」

 と呆れ声で言ってきたのはディストだった。剣を鞘におさめ、片腕を支えながらシュンに歩み寄る。

「いつも予想の斜め上を行ってくれるな。村人よ」

「おっと、もう俺ゃ村人じゃねえぜ? 新しい国の王だ」

「ふっ」

 苦笑いするディスト。

「知ったことではないな。貴様は俺のなかではずっと村人だ。ーーロニン様を奪いおってからに」


 あ、ひょっとして妬いてる?

 シュンはからかうようにディストの額を突っついた。ついでに尻尾も思いっきり握ってやる。


「やめんか人間! ……ったく、仮にもロニン様の許嫁ならば、もうすこし気品というものをだな……!」

「あーああ、オッサンは説教くせぇったらねえな」

「なんだと貴様……!」

「ち、ちょっと辞めてよ二人とも!」


 慌ててロニンが制止する。






 そんな人間とモンスターのやりとりを見ながら、セレスティアはひとり、呟いた。

「ひょっとしたら、私たちはかけがえのないものを壊すところだったのかもね……」

「は?」

 と近くにいた騎士が目を丸くする。

「いえ、なんでもないわ」


 セレスティアは気持ちを切り替え、シュンたちのもとへ歩いていく。

 すると、痴話喧嘩をしていた三人のうち、ロニンとディストがやや警戒したように皇女を見据えた。

 セレスティアは緊張感を出さないように努めながら、まずロニンに対し右手を差し伸べた。


「……これからは同じ国民になるのね。よろしくお願いします」

「は、はぅい……」


 ロニンのほうは緊張感丸出しで握手に応じる。

 瞬間、セレスティアは衝撃的なものを見た。


「あ、あなた、意外とその……大きいのね?」

「……へ?」

「いえ、な、なんでもないわ……」


 おかしい、とセレスティアは思った。なぜロニンは幼い顔をしているのにあんなに大きくて、私はぺったんこなのだろう……

 その会話をかぎつけたシュンは、愉快そうに笑い出した。


「そうだな、さわり心地もなかなか好ましかったぜ」

「え、ちょ、お兄ちゃんなにをっ!」

 頬を赤らめるロニンと、

「む、村人よ……! まさか貴様、ロニン様とそこまでいったわけではあるまいな……!」

 対照的に顔を青くするディスト。


 そして自身の胸をさすりながら、いまだになにかブツブツ言っているセレスティア。


 騒がしかった三人に、さらなる爆弾が投下された瞬間であった。

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