表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/263

政治のできる女

 ーーいったいどういうこと?

 セレスティアは戦争の真っ只中であることも忘れ、ぽかんとシュンとロニンを凝視した。


 彼女だけではない。人間もモンスターも、そしてディストでさえも、あの珍妙な男女二人に驚きを隠せないでいる。


 新しい国をつくる。シュンはたしかにそう宣言した。人間とモンスターが共存する、既知のない世界を創造するのだと。

 ーーなんて無責任な。

 セレスティアは両拳を強く握った。

 一国を作り上げ、そして維持していくのがどれほど大変か、あの新入生はわかっているのか。老齢な父王でさえ、人類の行く末には常々頭を悩ませているというのに。


 シュンはロニンを片腕で抱きしめつつ、ふいにセレスティアに目を止めた。


「おう、そこにいたか」

 言いながら歩み寄ってくる。

 騎士たちは動こうとしない。さっき勇者たちを吹き飛ばした光景を見て、すっかり縮こまっている。


「……なによ。やっと助けにきたと思ったら、わけのわかんないことを言って」

「ばーか。人間は守るって言ったろ。俺のおかげで一応は戦闘が収まったじゃねえか」

「…………」


 それはたしかにそうだが、相変わらず頭にくる男だ。


「そりゃそうと、セレスティアさんよ。おまえも俺たちの国に来ねえか?」

「……は?」

「実際、政治に詳しい奴がいたほうが俺としちゃ助けるっていうか。ロニンじゃそこんとこ不安だしな」


 ロニンが唇を尖らせ、こつんとシュンの腹を叩いた。そんな魔王に、シュンは苦笑いを浮かべていた。


 ーーなんという光景だ。

 人間とモンスターが仲良くしているなんて。しかも片や魔王だというのに。


 こうして見ると、ロニンはどこにでもいる、小さな人間の女の子と変わりなかった。尻尾さえ生えていなければ、モンスターと気づけなかっただろう。そもそも、勇者に告げ口されて初めて、彼女がモンスターだと知ったのだ。


 セレスティアはふと、周囲のモンスターを見回した。ゾンビや幽霊、獣、機械仕掛け……見た目こそ醜いものの、彼らとて生きている。立派な命がある。

 それに、いまは黙りこくっているあたり、問答無用で人間に襲いかかっているわけでもないようだ。


 ーー人間の死は許せないが、人間の死はどうでもいいというのか?

 ーーじゃあ聞くが、皇女サマはモンスター側の心情を考えたことあんのかよ?


 またしても、二つの台詞がフラッシュバックする。


 私は平和を目指していた。

 なのに人類の邪魔だからと、見切り発車でモンスターに戦いを仕掛けた。

 それで本当に世界は平和になったのか? モンスターだけじゃない、人間のなかには盗賊や犯罪者だっている。彼らも問答無用で殺せば平和が訪れるのか?

 違う。私が目指しているのはそんな世界じゃないーー


 興味はあった。シュンなる男が、いったいどこまでできるのか。どうすれば、争いのない世界が作れるのか。この世から戦争さえなくなれば、きっとかわいそうな子どもたちも少なくなるから。

 セレスティアは小さく目を閉じ、そしてーー言い放った。


「いいでしょう。《勉強》という名目でついていってあげてもいい。その代わり、学ぶことがないと判断したらすぐに徹底する。ーーいいわね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ