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叶わぬ想いだったのに

 ーーお兄ちゃん?


 ロニンが目を見開いたのも束の間。


 地面の一点に、突如として幾何学模様が発生した。ロニンが瞬きをする間に、その幾何学模様から筒状の輝きが放たれーー

 シュンが現れた。


「あーあー、大変なことになってんなこりゃ」

 彼は後頭部をぼさぼさ掻きながら周囲を見回した。その口調こそ軽いが、さすがにいつものような飄々とした態度は見られない。


 それはそうだ。人間もモンスターも、この地で多くの生命が死んでいるのだから。


 ぐるりと辺りを観察していたシュンは、ふいにロニンに視線を固定する。

「お、いたいた」

「えっ……?」

 棒立ちになるロニン。


 どうやら彼はロニンを探していたようだ。

 魔王の全身に緊張感が走る。怒られるかもしれないと思ったから。なぜ開戦なんてしてしまったのかと、罰を受けるかもしれないと思ったから。


 その脇で勇者アルスは呆然と突っ立っていた。が、数秒後、我に返ったように吼える。


「お……おい村人! これから俺と魔王が戦うところだ! 邪魔してくれるな!」

「…………」

「おい聞いてるのか!」

「うっせ」


 シュンがひょいと右腕を突き出す。


 ズドン! というすさまじい衝撃音に続いて、勇者と騎士たちがいっせいに後方に吹き飛んでいく。目に見えぬ衝撃波が勇者たちを襲ったようだ。


「お、おのれ、こんな猪口才ちょこざいな攻撃なぞ……!」

 怒った勇者が立ち上がろうと地面に手をつけたーーのだが。

「な、なんだ……?」

「どうなってる……。た、立てないぞ!」

 人間たちは地面に這いつくばったまま、一向に立ち上がろうとしない。いやーー立ち上がれない。


 シュンの放った攻撃は的確すぎるほどの《急所狙い》だった。人間たちはいま、HPの残量を多く残しているにも関わらず、動くことができない。


「あ……」

 ロニンは思い出した。かつて彼が、勇者アルスを一撃で戦闘不能に陥れたことを。


 でも、その攻撃を一瞬で、しかも大勢の敵にやるなんて。

 ーーさすがはお兄ちゃん。強すぎる……


「あーあ、やっと静かになったぜ」

 あくまで冷静なシュンに、ロニンは上擦った声を発した。

「お、お兄ちゃん……」

「おうロニン。久々じゃねえか」

「そ、そんなことないよ。昨日の夕方まで、一緒にいたじゃん……」

「たしかにな。でも俺は、あーっと、その」


 そこでシュンは珍しく頬を赤らめると、そっぽを向いた。


「会いたかったぜ、おまえにな」


「あ……」

 こんなときだと言うのに、ロニンは爆発寸前にまで顔を赤らめた。


 ーーお兄ちゃん。

 私はモンスターなんだよ。

 魔王なんだよ。

 なのに……どうして……なんで……

 そのことを思うと、戦争の真っ最中であることも忘れ、ロニンは思考停止になってしまうのだった。


今後の参考にしますので、アンケートにご協力してくださると嬉しいです。

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