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凶悪な大魔王

「で、出たぞ!」

「魔王ロニンだ!」


 突如ワープしてきたロニンに、騎士たちはぴたりと進軍を止めた。警戒したように武器を構え、魔王の出方をうかがっている。


「ロ、ロニン様!」

 騎士たちの背後からディストの叫び声が聞こえた。だが彼も自身の戦闘に手一杯のようで、こちらに向かってくるようすはまったくない。


 人間の悲鳴。

 モンスターの鳴き声。

 戦場はまさに地獄絵図だった。


 なぜ種族が違うだけでこんなにも敵対せねばならないのか。その答えはわからない。

 ーーでも、私は戦わないといけない。

 ロニンも覚悟を決め、鞘から剣を抜いた。

 私はモンスターの王だ。私がみんなを導かないといけない。


「待て。俺も戦う」

 ふいに若い男が聞こえた。

 と同時に、馬車から人間が姿を現す。


 忘れもしない。

 四ヶ月前、地下の洞窟で私を本気で殺しにかかった男。

 ーー勇者アルス。

 勇者は優雅に地面に足を降ろすと、片腕を横方向に突き出した。


「構えを解け。俺は奴と話がしたい」


 言われるままに、騎士たちは剣を降ろす。だが彼らの瞳には、ロニンへの絶対的な敵対心が変わらず残っていた。


 勇者は真顔でロニンを見据えると、ふんと鼻を鳴らした。


「これで会うのは三度目だな……思いもよらなかったよ。まさか貴様がいつのまに魔王になっていたとはな」

「……色々あったんです」

「色々? ほう。それはあの村人とも関係があるのかな」

「……村人。おーーシュンくんのことですね」

「へえ。名で呼び合う仲か」


 勇者は嫌らしく片頬を吊り上げると、右手を鞘に添え、抜刀の姿勢を取った。


「四ヶ月前に俺が言った通りだ。おまえは将来、必ず人類の敵になる。あのとき殺せていれば、とっくに人類に平和が訪れていたかもしれないものを」


 ーーなにも知らないくせに、知ったような口を……!

 さすがに反論しようと思ったが、すんでのところで抑え込んだ。きっとなにを言っても信じてもらえない。火に油を注ぐだけだ。


 戦って、勝利し、その先になにがあるのか。

 それはロニンにもわからない。ただひとつ言えることは、ここで彼女が頑張らなければ、モンスターが滅んでしまうということだ。


「いまはあの厄介な村人もいない。これは好機だ」

 勇者はひとりつぶやくと、騎士たちに向けて叫んだ。

「いくぞおまえたち! 結束して魔王を倒そう!」

「はっ!」

 勇者の命令に、騎士たちもいっせいに戦闘の構えを取る。


 ロニンもつられて剣を抜いた。

 ーーここで大勢の人間を殺せば、きっとお兄ちゃんに嫌われるだろうな。

 王都にもすくなからぬ打撃があるだろうし、クローディア学園で平和に勉強することもできなくなるかもしれない。


 さようなら、お兄ちゃん。

 最後にちゅうができて、本当に嬉しかったです。

 私は今日から、凶悪な魔王になりますーー


 そのときだった。


「まてまてまてい!」

 ふいに、この戦場には不釣り合いな、場違いなほど明るい声が響き渡った。

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