正解なき戦い
「馬鹿者め……。やすやすと身分を明かして、自分が我々の標的になるとは考えんのか」
ディストが剣の切っ先をセレスティアに向ける。他のモンスターたちも同じく、セレスティアにターゲットを絞ったようだ。
「ふふ……そうね」
セレスティアは薄い笑みを浮かべると、片腕を突き出し、戦闘の構えを取った。
「それでも構わない。仲間をこんなに殺したあなたたちを……私は許さない」
「ふん、馬鹿馬鹿しい」
ディストが鼻で笑った。
「表明もなしに先制攻撃してきたのは人間だろう。なんだ? 人間の死は許せないが、モンスターの死はどうでも良いというのか?」
「…………」
ーー人間の死は許せないが、人間の死はどうでもいいというのか?
ーーじゃあ聞くが、皇女サマはモンスター側の心情を考えたことあんのかよ?
セレスティアの脳裏に、同時に二つの台詞が浮かんだ。
モンスター。化け物。怪物。
奴らは問答無用で人間に襲いかかる。モンスターのせいで、家族を、友を、故郷を失った者が大勢いる。セレスティアの持つ孤児たちがそうだ。
だからモンスターは恐るべき存在で、なにがなんでも殺さなければならないのだと……そう思っていた。
だけど。
だけどそれは人間側の勝手な解釈で、モンスター側からしたらどうなのだろう?
たしかにディストの言う通り、問答無用で戦争を開始したのは人間のほうだ。モンスターから見れば、人間だって……
などと、考え込みすぎたのが命取りだった。
「せいっ!」
瞬時にして距離を詰めてきたディストが、目にも止まらぬ速度で剣を振り下ろしてくる。
「あ……」
あまりにも常識を超えたスピードに、セレスティアは反応することができなかった。ディストの剣がセレスティアの頭部に触れた。




