圧勝劇
「やれやれ……」
シュンはぽりぽりと後頭部を掻いた。
ーーやっぱ戦う羽目になったか。
めんどくせぇ。
シュンは寝ぼけ眼をこすりながらも、《勇者》アルスの鬼気迫る眼光を真正面から受け止めた。
自分が間違ったことをしているとは思っていない。
いくらモンスターといえど、問答無用で殺すのは間違っている。
それでは人間もモンスターと同様だ。
ふいに服の裾を引っ張られる感触があった。
振り向くと、うつむいたロニンが、控えめにシュンの服を掴んでいた。
「なんだよ?」
「なんで……お兄ちゃんは私を守ってくれるの?」
もじもじするロニンに、シュンは肩を竦めてみせた。
「さあ。知らん」
「へ?」
「とにかく下がってろ。巻き込まれて死なないようにな」
「う……うん」
言われた通り、ロニンは数歩下がった。そのまま逃げ出せばいいものを、律儀にシュンを見守っている。
それだけ、ロニンはこの村人に興味が湧いていた。
かつて自分にこれほど優しくしてくれた者なんていなかったから。
そりゃあ魔王の娘だし、ちやほやされたりはしたが、どこか他人行儀のようなものを感じていた。父でさえロニンをそのように扱っているように感じた。
けれど、シュンは違う。
態度はかなりそっけないけれど、自分のことを真に気にかけてくれている。
そんな気がした。
ーーだから、勝って。お兄ちゃん。
という緊迫感は長く続かなかった。
まさに一瞬の出来事だった。
猛然と振り下ろされた勇者の剣を、シュンは軽々と避けきってみせた。
そして。
シュンは人差し指だけを立てると、勇者の額にそっと触れた。
それだけ。
たったそれだけだった。
勇者の身体はビクンと痙攣した。
そのままガクンと膝を落とし、白目を剥いて倒れた。
そうして、あまりにも呆気なく、村人と勇者の戦いは終わったのだった。