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皇女の決意

 騎士たちは相当数そうとうすう殺されたようだ。


 馬車から降りたセレスティアは、戦場のあまりの悲惨さに思わず息を呑んだ。

 砕かれた赤鎧。

 そして飛び散っている血液。

 周囲一帯は死の赤色に染められていた。


 人型モンスターなる者はかなり強いようで、防具ごと身体が分断されている遺体がそこかしこにある。


 騎士たちには最高の防御性を誇る鎧を分け与えた。それをこうもスッパリ切り裂くということは、物理攻撃力がべらぼうに高いのだろう。

 おそらく、あの勇者アルスよりも。


 セレスティアの頬に冷や汗が伝う。


 これまでの人生で、死体など何度も目にしてきている。

 だがーー

 敵がここまで強いとは予想していなかった。兵力はこちらが圧倒的に上だが、それでも勝てるかどうかわからない。勝てたとしても、大勢の騎士が犠牲になる。


 ーーシュンくんはなにをしているのかしら……

 王都を出るとき、彼は姿を見せなかった。騎士のひとりを寮に向かわせたが、「後でいく」という答えが返ってきたらしい。なにやら考え事をしているとか。


 この戦争の勝敗は彼にかかっている。だから早く、一秒でも早く来てほしいのに……


 いや。

 私は次期国王になるのだ。

 他人に頼ってなどいられない。自分の道は自分で切り開く。

 必ず終わらせるのだ。永かったモンスターとの戦いを。


「道を開けなさい!」

 セレスティアは大きく声を張った。

 戦っていた騎士たちはびくりと背筋を伸ばし、左右の列に分かれる。そうして開かれた隙間を、セレスティアは凛乎として突き進んだ。


 やがて、一体だけ異様に存在感を放っているモンスターが視界に入った。


 長髪で色白。見た目はたしかに人間そっくりだ。ひ弱そうな見てくれとは裏腹に、すさまじい速度で騎士たちを次々と屠っている。彼のまわりだけ死体の数がすさまじい。


 人型モンスターは近くにいた騎士の首を切断すると、なにかを感じたかのように、ぴたりとセレスティアに視線を合わせた。


「……ディスト様、どうかされましたか」


 近隣のゾンビモンスターが人型モンスターに問いかける。


「いや、気にするな。おまえは戦っていろ」


「はっ」


 ーーディスト。それが奴の名か。

 セレスティアも同じくディストに視線を向ける。


「……騎士をこんなに殺したのはあなたかしら? ディストさん」


「いかにも。そういう貴様はかなりやんごとなき身分に見えるが……何者だ」


「皇女セレスティア。次期国王になる者よ」


「なに……?」


 さすがに予想外だったのだろう。ディストが大きく目を見開いた。


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