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戦う姫

 あちこちで戦いの声が聞こえる。


 剣のぶつかり合う音。

 モンスターの重厚な咆哮。

 それらのさまざまな戦闘音を聞きながら、セレスティアは頬杖をついていた。


 戦争はかなり激化しているようだ。ときおり人間の悲鳴も聞こえてくる。相手は憎きモンスターだ、多少の犠牲は仕方ないにしても、やはり心が痛む。できればこちら側には犠牲を出したくなかったから。


 モンスターを根絶させるための最終決戦。

 この作戦に、父王は喜んで賛同してくれた。そして騎士たちの指揮権をすべてセレスティアに譲渡してくれた。


 此度こたびの戦争に勝利すれば、モンスターを根絶させた功績者として、きっと歴史に名を残せる。もちろん、次期国王の座を確実なものにできる。それを見越してのことだ。


 相当数の騎士を召集できたのもそのおかげだ。


 おそらく、モンスター側の兵力など比べ物にならないほどの戦力が、この魔王城の周辺に集まっている。


 ーーきっと、父も国民も、この戦いに期待している。モンスターに苦しまされた時代はもう終わりを迎えるのだ。

 だから、騎士のみんなもどうか頑張って。そして、死なないでーー


 セレスティアが短く目を閉じた、その瞬間。


「……ん?」


 勇者アルスがふいに怪訝そうに眉を寄せた。


「どうしたの?」


「とてつもなく強大な《気配》が登場しました。……奴はなんと、単身で騎士を次々と殺していっています」


「なんですって……?」


 とてつもなく強大な《気配》。

 魔王ロニンのおでましなのか。いや、それにしては早すぎるーー


 そのとき。


 コツコツ、と、馬車の窓を叩くひとりの騎士。アルスは窓を開け、「どうした」と問いかけた。


「報告申し上げます! 痩身の人型モンスターが突如暴れ出し、戦線が崩壊しています! このままでは全滅ーー」


 セレスティアは大きく目を見開いた。

 痩身の人型モンスター。

 ということは、ロニンの他にも厄介なモンスターが存在した、ということか。しかも凄腕の騎士軍団を蹂躙じゅうりんできるほどに強いと……


 勇者アルスが、決然とした瞳でセレスティアを見据えた。


「私が出ます。このまま被害を出すわけには……」


「いえ、それには及ばないわ」


 セレスティアは勇者の発言を制すると、にっこりと微笑んでみせた。


「そのモンスターとは私が戦う。あなたは人類最後の希望。魔王と戦うまで、万全な状態にしておきたいわ」


「セ、セレスティア様がみずから……!?」


 これには勇者も仰天したようだ。


「な、なりませぬ! 姫様にもしものことがあっては……」


「大丈夫よ。私の魔法の腕前はあなただって知っているんじゃなくて? 私が出向けば戦況は変わると思うけれど」


「し、しかし……」


「部下が大勢いるのに、私だけ安全圏にはいられないわ。あなたは魔王との戦いまで、身体を休めていてちょうだい」

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