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戦争の予兆

 ロニンはひとり、王都の路地を歩いていた。


 さすがの大都市でも、夜になれば多くの人が寝静まるらしい。人っ子ひとり見あたらない住宅街を、ロニンはとぼとぼと歩いていた。


 等間隔で設置されている明かりのおかげで、なんとか道に迷わずに済んでいる。


 さすがは王都だ。

 モンスターの文化とは一歩も二歩も進んでいる。


 ーーモンスター……

 今日の試験のことを考えると、どうしても暗い気分にならずにはいられない。


 人間はモンスターをとことん嫌っている。そこに理由などない。ただ昔から嫌い合っているから、いまもそれを引きずっているだけ。

 そんなふうにロニンは思えた。


 ーー私は、仲良くなりたいのに……


 次の瞬間。


「魔王の娘、ロニン殿とお見受けする」


 ぞくりと。

 ロニンは全身の鳥肌が立つのを感じた。


 ーーこの声、後ろから!


 慌てて振り返ろうとするが、その前に口元を抑えられてしまう。


「……ん! んー!」


 とてつもない力だった。おそらく人間のなかでもトップクラスの実力者だろうと思われる。


 しかも相手はひとりだけじゃない。複数人だ。

 背後の人間はきつくロニンを羽交い締めにすると、嫌らしい笑い声を発しながら言った。


「悪く思うなよ。あんたには明日の戦争のための人質になってもらう」


 明日の戦争だと……?


 刹那、ロニンの全身を鋭い悪寒が通り抜けた。

 なるほど。そういうことか……!


 人間たちはまだ私が魔王だと気づいていない。だから魔王の娘たる私を人質に取り、モンスター側に対する切り札にしようとしている。


 なんて。

 なんて汚い……!


「はああああああっ!」


 気づいたとき、ロニンは叫びだしていた。どす黒い魔王の力が、漆黒の霊気となって沸き起こってくる。


「なに!」


 人間たちは目を見開き、ロニンから数歩引いた。


「馬鹿な、判定Eじゃなかったのか!」


 ロニンの尋常ならざる力の波動に、男たちは近寄ることさえできない。下手に近づけば殺されることが、本能的にわかってしまったから。


 ロニンは堂々たる眼光で人間たちを見据えた。


「人間よ。あなたたちは大変な誤算を抱いています」


「ご、誤算……?」


「私は娘ではありません。正当な現在の魔王、ロニンです」


「ま、魔王、だって……!」


 人間たちが驚愕の表情を浮かべる。


 だが、もう遅かった。ロニンの手刀が、神速のごときスピードで人間たちに襲いかかったのである。


「あなたたちの王に言っておきなさい。我々は戦う準備をすでに整えていると」


 人間たちは悲鳴をあげる間もなく、静かに膝を落とした。あまりにも呆気ない結末だった。


 ーー殺しはしない。お兄ちゃんは、闘うときだって優しかったから。


 固い覚悟を胸に、ロニンはひとり、魔王城へ戻るのであった。

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