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こんな村人がいたら勇者なんていらないんじゃないかな

「はは……なにを言うかと思えば」


 額に手を当て、乾いた笑いを浮かべるアルス。


「まさか、その女が実は善良な心の持ち主でしたーーみたいなことを考えているわけではあるまいな!」


「…………」


 シュンは答えない。


「よく聞け! そいつはな、昨日、とある村を襲ったんだ! 村人たちはいま、この洞窟内に捕らえられている。俺は彼らを助けにきたんだよ!」


「あっそ」


 今度はシュンが乾いた笑みを浮かべる番だった。


「ちなみに、その村人たち、もう俺が助けてあるから」


「……なんだと?」


 渋面をつくるアルスに、シュンはひょいとある方向を指さした。


 薄暗い洞窟の壁際に、中年の男女が二人、シュンを見守っていた。アルスに睨まれるなり、ひゃあと身を隠してしまったが。


「あれな、俺の親。めんどくせーことについてきやがった。他の奴らはもう、とっくに帰ってる」


「ば……馬鹿な……」


 アルスは二の句が浮かばず、ただ呆然と立ち尽くした。


 てっきり嘘だと思っていた。

 ここまで反則的な強さを持つ男が、まさか本当に村人であるはずがないと。


 なにも言えないアルスに、シュンは言葉を続けた。


「んでもって、村を襲ったのはロニンじゃねえよ。魔王の命令だ。途中でモンスターに吐かせた」


「……なんだって?」


「もしロニンが勇者に負けそうになったとき、村人を人質に取るつもりだったらしいな。つまりこれは全部、魔王の計らいなんだよ」


 そして、アルスはそのことをまったく知らなかった。

 決めつけていたのだ。

 村を襲ったのはロニン。村人を捕らえたのもロニン。

 すべて、ロニンが悪いのだと。


「な、わかったろ?」


 とシュンは言ってみせた。


「あんたはロニンのことを実際によくわかっていない。なのに、すべての根元がロニンだと思っていた。これがどんなに馬鹿馬鹿しいか、わかるか?」


「ぐ……」


 アルスはなにも言えなかった。悔しさを抑えつけるように、歯をきりきりと軋ませる。


 それだけシュンの言い分は正しかった。


 ロニンはまだ世界を知らないのだ。

 ただ魔王の娘というだけで、人類の憎しみと殺意をその身に受けてしまっている。


 ロニンという、小さな女の子の本質も知らずに。


 すっかり論破されてしまったアルスは、どうしても劣等感を抱かずにいられない。


 このシュンという男はいったいなんなのか。

 この強さ、この思慮深さ。

 すべてにおいて、村人の域を超えている。


 もしかしてーー《勇者》である自分すらも。


「お……おのれ……」


 いつしか、その劣等感は憎悪に変わっていた。


 アルスは剣の先をシュンに向け、なかば自棄になって言った。


「貴様がなんと言おうと、その女は魔王の娘。本質がどうであろうと、殺すべき宿命の敵だ。もし邪魔するのであれば、貴様とて殺してやるぞ」


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