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心の痛み

 様々な波乱を含みながらも、試験は無事終了した。


 ちなみにロニンといえば、最悪のE判定を授けられることとなった。デッドスライムに対し、思うような攻撃ができなかったのである。同胞を苦しめることができない、彼女の優しい性格がそのまま現れてしまった。


 だが、シュンとしてはひとまず安心だった。変に目立って、彼女の正体がバレるよりはマシだ。


 その後は昼食を挟み、魔術師試験、筆記試験と続き、終了した頃には夕方前になっていた。


 最後、新入生一同は噴水広場に集められた。


「判定結果は後日発表します。本日はお疲れさまでした。明日に備え、ゆっくりと身体を休めてください」


 教員の一言を皮切りに。

 新入生たちが、解放されたような笑みを浮かべながら、それぞれ散り始めていく。早いことにもう友達をつくった者もいるようで、これから夕食食べにいこうなどと話し合っている者たちもいる。


 その喧噪のなかで、シュンとロニンだけが立ち尽くしていた。


「……お兄ちゃん」


 夕日の光を背に受けながら、ロニンが切なげに呟いた。


「なんだ」

「お願い……ちゅう、して……」

「…………」


 クローディア学園の入学式。

 新入生にとっては晴れの舞台。


 だが、彼女にとってはこの上なく重い一日となった。

 騎士の適正検査のみならず、魔術師の試験においても、無力化されたモンスターが標的にされたからだ。人間のモンスターに対する憎悪が身に沁みてわかったのだろう。


 それだけではない。

 モンスターはロニンに対してだけは攻撃してこなかった。


 先のデッドスライムも、反撃らしい反撃もできず、その命を散らしていった。


 理由は単純。

 ロニンが魔王だから、本能的に攻撃ができなかったのだ。

 結果的に彼女は、抵抗もできない同胞を、有無をいわさず殺したことになる。


 それは人間がモンスターを討伐するのとは違う。ロニンにはロニンにしか感じられない心の痛みがある。


 だからこそシュンは、彼女の願いを受け入れた。


「ん……」


 それは無言で。

 誰も気づくことのない、静かなキス。


「……ありがとう。すこし、楽になったかも」


「あまり思いつめんなよ。こりゃ相当根強い問題だからな」


「……うん。今日はちょっと、魔王城で寝てくるね」


「……おう。わかった」


 ロニンは最後にシュンの右手をぎゅっと握りしめると。

 そのまま振り切るように、門へと走り出した。


 そのなんともいえぬ切ない後ろ姿に、シュンは手を伸ばしかけてーーやめた。


 ーーなんだ、この心の痛みは……

 俺らしくもねえ……


 シュンは乾いた笑みを浮かべながら、ひとり、帰路に着くのであった。

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