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人間と魔王

 シュンは強烈な葛藤に見舞われた。


 こんなに悩むのは生まれて初めてかもしれないと思った。


 さっき自分が守った女の子。

 その子こそが魔王の娘なのだとアルスは言った。


 にわかには信じがたい。この子が魔王の子どもだったとは。


 この場所を訪れたとき、ロニンはただのひ弱な女の子だった。アルスにいじめられている、ただの一般人にしか思えなかった。


 だから勘違いしてしまった。

 ロニンは被害者であり、魔王の子息にいたぶられているのだと。


 ーー嘘だろ。こんなことがあるかよ……


 ちらと、背後のロニンに顔を向ける。


 魔王の娘は、ひいっと身を縮こませ、シュンから数歩離れた。その瞳には、死に対する恐怖がありありと浮かんでいる。


「ぐ……」


 相手が女の子だからというわけではない。シュンにはどうしても、ロニンが忌むべき仇敵には思えなかった。


 ただひとりの、どこにでもいる普通の女の子なのだと。


「さあ、わかったな」


 シュンの葛藤なぞ露知らず、アルスは安心したように言った。


「その女が魔王の娘だ。悪の根は絶たねばならん。さっさと始末するぞ」


 その言い分は正しかった。

 いまは未熟でも、ロニンは正真正銘の魔王の娘。将来、どんな脅威になるかわからない。


 背後では、ロニンが泣き出しそうなほどに顔を歪めている。

 それを見て、シュンはひとつの決断をくだした。

 


「……認めねェよ。本当は、おまえが魔王なんだろ?」

 


「……は?」


 アルスが再び表情を固くした。


「また意味不明なことを。おまえにはそいつの尻尾が見えーー」


「そういうことを言ってんじゃねえ」


 シュンはアルスの話を遮った。


「相手が魔王の子だからって、一方的にいたぶって殺そうとして。おまえ、この子のこと実際はよくわかってないだろ?」


 アルスはむっとしたように目を細めた。


「なにを言うかと思えば。よーくわかってるさ! そいつは魔王の娘だ! いずれ世界征服をたくらむようになる!」


「……やれやれ」


 シュンは呆れたように肩を竦める。


 相手がモンスターだからといって、問答無用で殺そうとする。

 その野蛮性。残虐性。

 俺たち人間だって、魔王のようなものではないのか。

 珍しく、シュンはそんなことを考えていた。


「ともかく、だ。この子は殺させない。俺が全力で阻止する」


 シュンが宣言した瞬間。

 ロニンは、驚いたように目を見開いた。




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