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決戦へ

「ゲス? その言い方は看過できないわね」


 と言ったのはセルス。


 金髪を肩のあたりで短くまとめ、凛とした青い瞳が強く攻撃的だ。


 魔王と同じくかなりの美貌の持ち主であるが、セルスはプロポーションも抜群だ。同性ならば誰もが羨み、妬むであろう。


 セルスは乱れたドレスを整えると、魔王の隣に立ち上がった。


「誘ったのは私。魔王様はそれに応じてくださっただけよ」


 そんなのはどうでもいい。どっちだって同じだ。

 ロニンはなにも言わず、セルスに厳しい目を向け続ける。


「納得いかないって顔してるわね? でもこれは当然ではなくて?」


「…………」


 ロニンは心中でなにもかもを悟った。


 おそらく、セルスは時期魔王の就任を確実とするために、自分の身体を売ったのだろう。


 世論はセルスに大きく傾いている。


 だがロニンとて魔王の子。最終的にどちらが就任するかわからない。時期魔王を決定するのは結局、現在の魔王だからである。


 だからセルスは次の手段に出た。なんとしてでも自分が次の魔王となるために。


 汚い世界だ、とロニンは思った。

 城下町では多くのモンスターが傷ついているのに、上の連中は自分のことしか考えていない。


 一般のモンスターのことなぞ、これっぽちも考えていないのだ。


 ロニンは思い出した。

 人間世界での朗らかな暮らしを。

 美味しかった食物を。


 モンスターだって人間と同じだ。

 私たちだって美しい世界に住みたい。こんな荒れ果てた土地など望んでいない。


 なのに、上の連中がこれでは、モンスターたちの幸せは一向に訪れない。

 こんな二人に、将来のモンスターの行く末なんて任せられない。


 ならばこそ。


 ロニンは決意を瞳に称えながら、セルスを見据えた。


「残念だけれど、時期の魔王は私。セルス、あんたには任せられない」


 セルスはたっぷり数秒間目を瞬かせていたが、やがて堪えきれなくなったように大笑いした。


「あっはっはっは! これは驚いたわ! ロニン、まさかあんたがそんなことを言うようになるとはね!」


「大口を叩けるのもいまのうちよ。もう私は、昔とは違う」


 そう、私にはお兄ちゃんとともに過ごした日々がある。

《引きこもり》という、最強の力が。






「ーーだってよ。おいオッサン、俺たちはどうする?」


 シュンは薄ら笑いを浮かべながら魔王に問いかけた。

 脇では、ロニンとセルスがいまにも爆発しそうなほどに対峙している。


 ーーロニン。

 すこし心配だが、もうおまえならひとりでやっていけるだろう。セルスはおまえに任せる。


 その思いが伝わったのか、ロニンもシュンを一瞬だけ見つめ、こくりと頷いた。


 ーーいいよ、お兄ちゃん、お父さんを倒して。


 シュンも同じく頷き返すと、再び魔王を見据えた。


「娘さんから許可が下りたんでな。魔王よ、おまえの命も今日までだ」


「なんだと……?」


 魔王がぴくりと眉を動かす。


「こいつは芸術だな。まさかこの私に大ボラを吹く者がいようとは」


「その台詞。小物臭プンプンだぜ、おっさん?」


 言うなり、シュンは右手を突き出した。


「こんなとこで戦うのもなんだ。紳士は潔く場所を移そうぜ」


「ふん。ずいぶんと余裕なんーー」


「ハッ!」


 魔王が言い終わらないうちに、シュンは右手に気合いを込めた。


 ズドッ! という轟音についで、すさまじい衝撃波が室内を駆けていく。


「ぐおっ!」


 避ける間もなく、魔王が勢いよく後方に吹き飛んでいく。窓をも突き破り、はるか彼方へと遠ざかっていく。


「じゃあロニン。死ぬなよ」


 それだけ言い捨ててから、シュンも窓から飛び降り、魔王を追っていくのだった。

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