それでもおまえは魔王なのか
ーーなんて。
ーーなんて馬鹿馬鹿しい結末なの。
父親とセルスを見下ろしながら、ロニンは必死に激情を抑え込んでいた。
それは怒りによる震え。
力強く両拳を握り締めなければ、自我を保つ自信がなかった。
魔王城の最上部。
天蓋付きの白いベッドに、魔王が好んで弾くオルガン。漆黒の絨毯には埃ひとつ落ちていない。
見慣れたはずの父親の部屋。
だがそこに、いてはならない者がいる。
セルス。
ロニンの敵対者にして、時期魔王の有力候補者。
そんな女が、父と身体的接触を持っていた。
おそらく、父がロニンを見捨てことと無関係ではあるまい。父は自分の欲望に負け、ロニンを捨てたのだ。
そして。
許せないのはそこだけではない。
ふと耳を澄ませば、モンスターたちの叫び声があちこちから聞こえてくる。
おそらく、ディストと一般モンスターとの戦いが、いまも続いているのだろう。つまりモンスターに負傷者が続出しているのだ。
なのにーー
そのモンスターの頂点に立つ男は、そんな悲鳴をまったく無視してかき消して、ひとり情事にいそしんでいる。
それでも……
それでもおまえは魔王なのか!
ロニンの気迫のこもった眼力に、魔王は一瞬だけたじろいだようだった。
だがすぐに平静さを取り戻し、銀色の長髪をかきあげながら立ち上がった。
「これはこれはロニンよ……久々ではないか」
ぎろりと睨みつけたまま、ロニンは父の全身を見回した。
長い銀髪が腰のあたりまで伸び、色白の小顔はなかなか美形に見える。
瞳は紺碧に輝いており、強者たる雰囲気を強く漂わせていた。
これから脱ぐところだったのであろう、漆黒のマントが若干乱れている。
数秒ののち、ロニンは冷たく言い放った。
「……あんたに、魔王の資格はない」
「ほう? しばらく見ない間に随分とでかい口を叩くようになったじゃァないか。ん? いったいなにがあったのだ」
父の威圧的な言動にも、ロニンはまったく動じなかった。
ただまっすぐと、力強い瞳で魔王と対峙する。
魔王は面倒くさそうに舌打ちすると、ロニンの肩越しからシュンに目をやった。
「貴様の差し金かな? 要注意人物Bよ」
シュンはいつも通りの飄々とした態度で肩を竦める。
「ちげーよ。おめェがあまりにゲスすぎるからじゃねえのか、魔王さんよ?」




