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魔王への階段

 魔王城の内部に、ほとんど敵兵は残っていなかった。


 おそらくディストが頑張ってくれているのだろう。不気味なまでに静まりかえった魔王城内部を、シュンとロニンは無言で歩き続けた。


 その装飾すべてが、シュンにとっては新鮮だった。


 回廊に敷き詰められた赤い絨毯。

 天井にいくつも吊されている豪華絢爛ごうかけんらんなシャンデリア。

 壁面には、等間隔で金箔のキャンドルが設けられている。どういう原理なのか、炎は緑色であった。


 長いこと自分の家しか知らなかったシュンにとって、目に映るものすべてが刺激的だった。


 ーーたまにはこうやって外に出るのも悪くねえかもな。


 すべての騒動が収まったら、すこしくらい外出するのもいいかもしれない。


 まあ、自室のベッドが一番好きだという事実は変わらないが。


 何分ほど歩いただろう。シュンたちは螺旋状の階段の手前で立ち止まった。


「この先に……魔王がいるのか?」


「……うん」


 真紅の絨毯も、金色のシャンデリアも、装飾はいっさい変わっていない。


 だが、この果てしなき階層の上から、いわく言い難い霊気のようなものを感じる。


 空気そのものがどこか黒ずんでいるように見えるのも、きっと気のせいではあるまい。


 ーー魔王、か。

 さしものシュンも身震いせずにはいられない。


 なにせ長きに渡って人類を苦しめてきたモンスターの頂点と対面するのだ。


 奴に対する知識もほとんどない。魔王に挑んでいった者はすべてごとごとく殺されていったから。


 だからこそ、勇者アルスが最後の希望としてもてはやされていた。


 ーーまさか、その勇者さんよりも早く魔王城に到着することになるとはな。


 そこまで考えて、シュンは鳥肌が立つのを感じた。


 寒気、か。俺らしくもねえ。

 シュンはがつんと気合いを入れ、両拳を打ち付けた。


「さあ、ロニン。行こうぜ。おりゃ早く帰って寝てえよ」


「う、うん。それはいいんだけど、あの……」


 ロニンがなにかを言いたそうにモジモジしている。どこか恥ずかしがっているようだ。


「ん? どうしたよ」


「ごめん。緊張しちゃって。また手を繋いでほしい、みたいな……」


「なんだ、そんなことかよ」


 ほれ、と言ってシュンは手を差し出す。


 おそるおそる伸ばされたロニンの小さな手を、シュンは包み込んだ。


 ーー温かい。

 人間だからとか、モンスターだからとか、関係ない。


 ロニンはいまを懸命に生きている。俺はその手助けをしてやるまでだ。


「さあ、行くぞ」


「うん!」


 かくして、村人と魔王の娘は、手を取り合い、一段ずつ階段を昇っていった。


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