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童貞だから仕方ない

「つ、辛い……」


 ベッドで寝返りを打ちながら、ディストは呻いた。


 引きこもり生活を始めて一週間。

 なにもすることがない。


 隣の部屋でロニンと会話する分には《レベルアップ》に支障ないが、それだと成長速度が遅いらしい。


 やはり、自室に完全にこもってこそ真の引こもりであるーーなどと村人はドヤ顔で言っていた。


 納得できないが、いまは従うしかない。なにしろシュン自身がレベル999なのだから。


 隣室のロニンといえば、物音たてずじっと引きこもっている。部屋から出たようすもない。


 素直にすごいと思う。

 魔王城では、暇を持て余して部下にちょっかいばかりかけていたのに。だからおてんば娘などと呼ばれていたのに。


 ーー変わられましたな、ロニン様。


 その成長が、嬉しくもあり寂しくも感じる。

 ロニンが変わったのは、ディストではなくシュンのおかげなのだと。


 ならば、俺も頑張るしかない。

 引きこもるだけで本当に強くなれるのか。どうしてもそこに疑問を感じてしまうが、どうせいまは足を痛めている身。


 どの道俺には引きこもる以外の選択肢はないのだ。


 そう思って再び寝返りを打とうとした瞬間ーー


「うぎゃーーーー!」


 突然の悲鳴で意識が覚醒した。

 いまの声はーー間違いなく……!


「ロニン様!」


 いてもたってもいられず、ディストは自室を飛び出した。


 隣室の扉を勢いよく開けながら、大声を張り上げる。


「ロニン様、どうされましたか!」


「ディ、ディスト……こ、これ……」


 顔を真っ赤にしながら床にへたれこんでいるロニン。


 その手に持っているのは。

 女の裸が描かれた、すけーべな本。


「これがベッドの下にあって……ディスト……なにこれ……?」


「いや、なにと言われても……」


 口ごもるディスト。

 おおかた、あの村人が隠すのに失敗したに違いない。


 ーーあの不敬者が。ロニン様になんてものを……!


「ちょいと失敬。村人に問いつめてきますゆえ、その本を貸していただけますかな」


「う……うん……」


 おそるおそるといった表情で本を差し出してくるロニン。


 その怯えた表情。可愛そうに。本当に怖かったんだろう。


 怒りを爆発させながら、ディストはロニンの部屋を出ると。


 すけーべな本の表紙をひらと見やった。


 ごくりと唾をのむ。

 ーーどうしよう、村人を怒鳴るのは当然としても、なんか……


 ディストは周囲を見回すと、自室に戻り、その本をこっそり楽しんだのであった。


 ディストは童貞であった。



 ーーそのような波乱も交えながら、シュンの《引きこもり修行》は続いた。

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