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引きこもりは豚すら凌駕する

「あ……あ……」


 オークはもう声も出ない。

 自分より劣るはずの《村人》が、いとも簡単に牢を壊してしまったのだから。実際、シュンの外見はひょろひょろの骨男だ。


 だが、オークは知っていた。

 万が一に備え、ロニンが牢の強度を魔術によって最大限に高めていたことを。

 だから、たとえオークが全力で体当たりしたところで、実はちょっと傷がつくだけだ。

 その鉄格子を、この若者は、息をするように壊してみせた。自分ですら不可能な離れ業を。


 ーー強い。この男は規格外に強い。


 頭ではわかっていても、納得はできなかった。

 ありえない。

 ただの村人より、この俺が劣るなどと。

 だから次の瞬間、オークは大きく叫んでいた。


「おおおおおおっ! 殺す、てめえは殺してやる!」

 そんなオークを、シュンはなかば哀れむように見つめる。

「現実を見ろよ。このタコ」

「くおおおおおっ!」


 狂乱したように振り下ろされる棍棒を、シュンはひょいと避けてみせた。その後もオークは次々と棍棒を打ち込んでいくが、シュンには一撃たりとて命中しない。


 オークの攻撃が弱いわけではない。現に昨晩は、押し寄せるオークの大群に村人たちはなすすべもなく捕らえられた。抵抗する者は、この棍棒によって一瞬で気を失った。だから十分脅威になりうる攻撃のはずなのだ。


 だが、シュンは規格外に強すぎた。どんなに武器を打ち込んでも、かすりもしない。


「飽きたな」

 シュンはふいに呟くと、さっとオークの猪首を掴み上げた。

 その細い腕が、オークの巨体を持ち上げる。

「答えろ。村のみんなをどこへやった」

「ぐ……」

「早く答えてくれないか。俺ゃあ早く帰りてえんだ」

「ここから階段を降りて……地下牢に……」

「ふうん。地下牢ね。じゃああんたにはもう用ないや」


 言うなり、シュンはもう片方の拳でオークの腹を殴りつけた。オークは悲鳴をあげ、後方の壁に激突し、そのまま動かなくなった。


     ★



 勇者アルスはさっと剣を構え直した。

 極寒の地で手に入れた、聖剣デュアリカル。

 それを鞘におさめ、柄に手を添える。

 左足をやや前に突き出し、いつでも抜刀できる姿勢を保つ。


 いま、アルスの集中力は極限にまで高められていた。かつてない高揚感が、全身に満ちていく。


 ーーこのままいけば……勝てる!


 アルスの眼前で対峙するのは、小柄な女。

 紅に輝く髪が、さらりと肩胛骨けんこうこつのあたりまで伸びている。

 瞳も燃えるような赤に染まっており、アルスに対する猛烈な敵対心を示していた。

 小ぶりな丸顔に、鼻がしっかりと綺麗に通っている。

 見た目だけでいえば間違いなく《美人》であるが、しかし間違ってもよこしまな考えを抱いてはいけない。


 なぜならーー彼女こそが魔王の子、ロニンだからである。


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