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ロニンへの感謝。トルフィンへの思慕。セレスティアへの思いやり。アルスとの誓い。

 いったいなにが起きている……!

 目の前の超常現象ちょうじょうげんしょうに、シュンは思考が真っ白になった。


 どこからともなく、大量の光の粒子が現れ――突如として、創造神ディストを包み込み始めたのだ。


 創造神はいま、無数の煌めきを身にまとい、狂気の威圧感を放っている。まさに神々しい……世界主にふさわしい、人智を超えた圧力。


「ふふ……あっはっはっは!」

 両手を空に掲げ、裏返った笑い声をあげる。

「これぞ神である! すべての天使の力を、再び私に帰依させ……私はいま、本来の力を取り戻したのだ!」

「なにを……言ってやがる……!」


 思わず後ずさるシュン。

 なにが起きたのかはわからない。

 だが本能では理解していた。

 あの創造神が……二人がかりでも倒すのに苦労したディストが、さらなる力を手にしたことを。

 シュンは気づいた。

 らしくもなく、鳥肌が立っている自分を。



 残り時間 ――0:00:40――



「では始めようか。本当の殺戮さつりくショーをね」

 創造神が片頬を吊り上げ、笑った――ような気がした。

 次の瞬間には、シュンの背後で、すさまじい爆発音が発生していた。

 同時に、

「かはっ……」

 と聞き覚えのある悲鳴も混じって聞こえる。


 シュンが慌てて振り向くと、息子トルフィンが呆気なくも倒れていた。

 身体が真っ黒に焦げている。高温に晒されたか、息子から黒煙が立ち上っていた。

「お、おい……」

 シュンが呼びかけるも、息子はぴくりとも動かない。


 ――そんなまさか……あいつがたった一撃で……


「ふふ……彼は私がステータスを上げてあげたんだけどね。それでも耐えられなかったようだ――神の力には。さあシュン君、次は君の番だ」



 残り時間 ――0:00:20――



 強い。強すぎる。

 込み上げる恐怖心を、シュンは律することができなかった。

 元より常識外の力を持つディストが、さらに強くなろうとは。残り時間も一分を切った。


 ――けれど。

 ここで諦めるわけにはいかない。

 どのような絶望的な状況であろうとも、俺は決めたはずだ。

 もう二度と、争いのない国を創ると。ロニンを救ってみせると。

 ここで挫けるわけにはいかない。

 シュンは改めて闇の双剣を構え直し、神と対峙した。


「ほう、この後に及んでまだ私と戦うつもりかね! 愚か者めが!」


 奴の御託を聞く気には毛頭なれない。

 シュンは大きく息を吸い込むと、覚悟を決め、創造神へ向けて駆けだした。



 残り時間 ――0:00:10――



 シュンはもてる意識のすべてを創造神の一挙手一投足に集中した。

 思考が焼き切れんばかりに高速回転し、かつてない高揚感を感じる。

 いくら尋常でない力を手に入れたとはいえ、相手もかなり体力を削られているはず。

 そこを突くしかない。


「さあ、あらがいたまえ!」

 ディストが杖を掲げると、そこから閃光がほとばしった。一条の雷が神速でシュンに飛来してくる。


 だが、シュンは避けなかった。

 瞬間。

 想像を絶する衝撃と熱量がシュンの胴体を射抜(いぬ)いた。

 視界がにじむ。まともな呼吸ができない。

 激痛に顔を歪ませ、足をふらつかせながらも、シュンは走り続けた。

 ――時間がない。

 回避する暇があるのなら、せめて一撃だけでも叩き込め――!


「ほう……!」

 創造神が口元を綻ばせる。

「そう来るか……! やはり侮れない奴だ、シュンよ!」


 ディストの杖が再びまたたいた。

 今度は一筋どころではなく――いくつもの雷が、無数に絡み合ってシュンに襲いかかった。そしてディストは、この攻撃でシュンを始末するつもりだった。


「うぐっ……」

 身体の感覚がすべて消失し、呻き声をあげるシュン。痛みの感じ方さえ忘れてしまった。もはや自分が生きているのかさえ疑わしい。

 だが、それでも耐えてみせた。

 神へ到達するため。

 みんなを守るため。


 己の限界をも超えて。

 足をふらつかせてでも。

 神に向けて走り出した。


 このことに一番驚いたのは、ディスト自身であった。



 残り時間 ――0:00:03――



 シュンは剣を振りかぶった。

 渾身の力を込めたつもりだったが、それはあまりに覚束ない動作だった。



 残り時間 ――0:00:02――



 それでも攻撃には充分だった。

 ディストは恐れおののいていた。

 ステータス、スキルというシステムは彼が創り出した。

 なのに。

 理解できなかった。

 本来死んでいるはずの男が、なぜまだ立っているのか。

 なぜ、剣を振るうだけの余力があるのか……



 残り時間 ――0:00:01――



 シュンの打ち降ろした刀身は、弱々しくも創造神の全身を縦に斬り裂いた。

 それは攻撃とすら呼べない、子どもの遊技にも等しい一撃だった。

 だが、その一撃には《すべて》が詰まっていた。

 昔引きこもっていたことへの後悔。

 両親への申し訳なさ。

 ロニンへの感謝。

 トルフィンへの思慕。

 セレスティアへの思いやり。

 アルスとの誓い。

 ありったけの想いすべてを、神に叩き込んだ。

 そして。

 その見事なる斬撃は、残りわずかとなっていた創造神の体力を、残らず喰らい尽くした。


「愚かな……この私を滅するなど……!」


 最期の瞬間、神は悲痛なる叫び声をあげた。


「貴様も知るがよい。管理者としての運命を。世界を統治することの呪いを。それを知ったとき、貴様は後悔するだろう。私を殺したことを。その苦悶に歪むさまを……遠き場所から鑑賞してい……ふふふ……わーはっはっはっは!」



 

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