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大好きな彼のように

 命を賭けて戦うのは何年ぶりだろう。


 魔王城を侵略したときか。

 あるいは、セレスティア率いる人間軍と戦ったときか。

 しかしいずれにしても、私の近くには常にあの人……シュンがいた。彼に守られながら、私はこれまでの戦いを乗り越えてきた。


 けれど、いまは違う。

 彼はこの場の一切を私に任せて行った。その先に創造神ディストが待ち受けている以上、彼が私に気遣っていられる余裕はあるまい。


 ――実質、これが初めてだ。本当に命賭けで戦うのは。


 思考の端でそんなことを考えながら、ロニンは愛剣を引き抜いた。切っ先を熾天使ミュウに向ける。

 相手は神族。こちらの常識を超えた存在だ。一瞬たりとて油断はできまい。


「ふふ」

 熾天使ミュウは斧を肩に担ぎ、綽々とした笑みを浮かべる。

「楽しみね。あんたはどんな顔で逝くのかしら? 最大級の苦痛を味あわせてあげる」

「…………」


 思わず黙り込んでしまうロニン。

 彼女の狂気的なまでの発言に、ある種の予感を抱かずにいられなかった。


「……さっき、アルスさんは孤児院の子たちを連れてきてなかった。もしかして、あなたが殺――」

「そう、殺したわよ」


 ――殺した。

 自分で聞いておきながら、にわかには信じることができない。

 セレスティアに集められ、心の傷を癒しつつあった子どもたちを、殺したと――ミュウはたしかにそう言ったのだ。


 なぜ。どうして。

 それを問う前に、ミュウは両手の指を絡み合わせ、恍惚的な表情を浮かべた。


「いま思い出してもゾクリとするわね。あの呆気ない顔。なにも理解できないまま死んだのでしょう。うふふ……あぁ、やっぱ子殺しはたまんない!」

 その猟奇の瞳をぎょろりとロニンに向ける。

「あんた、だいぶ強くなったんでしょ? 最高の《殺し合い》を楽しもうよ!」

「……そう。そういうことだったのね」


 なんとなくわかった気がした。

 ミュウは生物の命を殺すことに異常な性癖を抱いている。

 そういう意味ではディストと同類といえた。


 奴が人の足掻くさまに興奮するのと同様に、ミュウもまた、人殺し――とりわけ、幼い子どもの命を奪うことに執着している。だから孤児の一員として、セレスティアに匿われていたのだろう。虎視眈々と、子どもたちの首を狙って。


 でも。

 ロニンは首を横に振った。


「殺し合い? 馬鹿いわないでよ。そんなのお断り」

「……は?」

 ミュウが目を丸くする。

「なに言ってんの? 私たちを始末しにきたんでしょ? そうしないと世界が滅ぶんだよ?」


 ロニンはふうと息をつくと、ミュウの動きを警戒しつつ、口を開いた。


「私はモンスター。人間には嫌われて当たり前の存在だったよ。実際、王都のクローディア学園では、入学試験の的にデッドスライムが『使われて』た」

「……そりゃそうよ。ディストがそんなふうに世界を創ったんだから」

「でもね。たったひとりだけ例外がいたの。彼は人間なのに、私の味方をしてくれた。モンスターがひどい扱いを受けないように、人間とモンスターが共存する国を作ってくれた」

「…………」


 ミュウが不愉快そうに顔をしかめるが、ロニンは気にせず話を続ける。


「すごいと思わない? みんなが嫌ってる相手にすら、彼は歩み寄ろうとしたんだよ。そして私は気づいたの。私たちは本来わかりあえるはずなのに……勝手に壁をつくって、相手を悪者扱いして、自分から遠ざけてるんだ。それじゃ、どんどん距離が開いていくだけなのに」

「それで? なにが言いたいの? 私、そろそろ戦いたいんだけど」


「……だから《殺し合い》なんてやらない。彼が私にそうしてくれたように……私は、あなたさえ救ってみせる!」


 決然と剣を構えるロニンに、ミュウは数秒間だけ目をぱちくりさせ――弾けたように笑い出した。


「あっはっはっは! 傑作! この私を救うだって! いいでしょう! やれるものならやってみなさいな!」

 そして腰を落とし、斧を構えながら叫び出す。

「神族の最高位たる熾天使……魔王ごときに負けるほど柔やわじゃないわよ。目にものを見せてあげる。さあ、かかっておいで!」


 ――こうして、魔王と天使の戦いは幕を開けた。


 残り時間 ――0:40――

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