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アリアンヌの部 【生きる意味を】

 引きこもりLV.999。

 そして超一級とでも言うべき神の霊気。

 その二つをあわせ持った者の力を、アリアンヌは初めて間近に見た。


「あなたは……シュン……」

 かすれた声で呟く。


 ――違う。

 これまでの彼とは格段に違う。


 アリアンヌは感じた。

 シュンの背中からほとばしる、とめどない力の奔流ほんりゅうを。心なしか、彼の周囲だけ紅のオーラが燃えさかっているように見える。


 国王シュンは、ミュウの斧を二本の指で抑え込んでいるようだった。ミュウは苦々しい表情で斧を引き抜こうとするが、しかしシュンは微動だにしない。


「これ以上おまえたちの好きにゃさせねえ。つけさせてもらうぜ。蜘蛛の敵をな」


 言うと、シュンは空いた腕でミュウの腹部を殴りつけた。

 たったそれだけで二人の間に衝撃波が発生する。

 シュンの腕がミュウの腹にめり込んでいく。


「うっ……」

 さすがに堪えたのか、ミュウは呻き声とともに後方に吹き飛んでいった。

「ふん」

 シュンは鼻を慣らすと、指で抑えたままの斧をいずこかへと放り投げる。


 ――強い。

 まさかあの熾天使をいいようにもてあそぶとは。

 むろん、この結果こそ、アリアンヌが大昔から計画していたことでもある。


 だが、まさか人間が、これほどの力を手に入れるとは。シュンが引きこもりLv.999でなければ起こり得なかった、まさに奇跡のような結末だ。


「大丈夫? あなたは、私たちが守るから」

 ふいに脇から優しげな声が投げかけられた。


 振り向くと、魔王ロニンが小柄な身体でアリアンヌの身体を守ってくれていた。戦いの余波がアリアンヌに当たらぬよう、立ちふさがっていくれているようだ。


 いまのアリアンヌはHP1。

 ちょっとした刺激でもすぐに死んでしまう。

 ロニンもそれをわかっているようで、石ころひとつ通さぬように守ってくれている。


 その並々ならない立ち居振る舞いを見て、アリアンヌはまたも舌を巻いた。


 シュンほどではないが、彼女もまた格段に強くなったようだ。もはや一般の天使ごときでは、この二人にかすり傷ひとつ負わせられないだろう。


 アリアンヌは乾いた笑みを浮かべ、乱れた呼吸でロニンに言った。


「私を守るつもりですか。おやめなさい。いまの私はただの雑魚です。生かしておく価値は……ありません」

「価値とか関係ないです。あなたは私たちを助けてくれた。今度は私が、あなたを守る番です」

「……しかし」

「大丈夫です。シュンさんは強い。見ててください」

「…………」


 アリアンヌは気づいた。

 視界が滲んでいくのを。

 頬に大量のしずくが流れていくのを。


 このまま死ぬと思っていた。

 有望な若者に未来を託し、自分は消滅するのだと思っていた。

 なのに。

 生かしてくれるというのか。

 すべてのステータスが1、生きている意味すらない、この私を。

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