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創造神の部 【希望と絶望を知るがよい】

 ――美しい。

 創造神ディストは二マアッと両頬を吊り上げた。


 絶望的な状況に置かれてもなお、活路を見出していく人間たち。

 見事だ。本当に。


 王子トルフィンの計らいにより、世界で生き残っている多くの人間・モンスターが、わずかながら希望を見つけだした。


 いまは駄目でも、いつか王子たちが天使たちを助けてくれると。


 ――素晴らしい。

 どうせ彼らは死ぬ運命。

 それは変わらないというのに。

 せいぜいあがくがいい。

 そして希望を抱くがよい。

 期待と渇望がピークに達した頃、私が粉々に砕いてくれよう……


 むふ。むふふふふふ。


「なにニマニマ笑ってんのよ。気持ち悪い」

「……ん?」


 ふいに聞き覚えのある声がした。


 星合せいごうの間。

 創造神が下界を観察し、操作する――世界の最上位に位置する場所。

 そこに予告もなしに現れる無粋な輩といえば、彼女しかいまい。

 創造神ディストはコホンと咳払いし、眼鏡の中央部分を持ち上げた。


「君か。ノックくらいしたらどうだね」

「なーに言ってんのさ。あんたのことだ。あたしの気配くらい、とっくに気づいてただろう?」


 星合の間は、夜闇に包まれる室内にあって、無数の星が照明代わりとなっている部屋である。そこの玉座に座り込み、ディストは下界の様子を透視していた。


 物音のひとつ無いその部屋には、大きな星の紋様が描かれている。その星のかど部分に、ひとつ、光の柱が浮かび上がった。

 数秒後、シュイインという儚げな音を響かせながら、光の柱に人影が発生する。


 小さい女の子の影。

 ディストは数秒も前から、かの者の正体を察していた。


熾天使してんしミュウよ。久しぶりだな」


 ディストの呼びかけと同時、光の柱は完全に薄れ、人影の姿を明確にさらけ出した。


 熾天使。

 天使における最上位の階級。

 三対六の白翼を携え、熾天使ミュウはちょこんと肩を竦めた。


「相変わらず趣味の悪いことやってるわね。飽きないの?」

「ふふ、これが私の性分でね。君の性癖と似たようなものさ」

「ふうん。ま、いいけどね」

「……どうしてここに来た。まさか孤児院の《仲間》を皆殺しにしてきたのかな」

「うん。我慢できなくなっちゃった」


 てへ、と可愛げのある声を発し、舌を突き出すミュウ。見た目はたしかに、ただの子どもにしか見えない。

 ディストは頬杖をつき、盛大にため息をついた。


「我慢しろと言っただろう? おまえには忍耐が足りないな。智天使に落とそうか」

「や、やめて。それだけは勘弁」


 顔の前で両手を合わせるミュウ。彼女は気丈な娘だが、やはり階級を落とされるのは気分が悪いようだ。


「これ以上の勝手な行動は慎んでもらおうか。……なに、心配はいらん。今後、君には重要な仕事を任せることになる。国王なり王子なり、好きなだけ殺すがいい」

「ほんと!? いっぱい殺していいの?」

「ああ。好きにするがいい」

「やったね、ありがとう!」

 一転してぴょんぴょん飛び跳ねるミュウ。


 ミュウには異常ともいえる性癖がある。

 すなわち、殺人癖。


 数年前――ゴルムに矢を向けられた彼女をディストが助けなければ、まず間違いなく、彼女が人間軍を殲滅させていた。そうなってしまっては、せっかくの《観察》が無になってしまうというのに。


「あ、そういえば」

 物思いに耽るディストに、ミュウは翼を羽ばたかせて言った。

「いまの見た? トルフィンたちの中継」

「ああ」

「生意気じゃない? 殺してきていいかな?」

「まあ待て。ただ殺してしまっては面白くない」


 そこでディストは片頬を吊り上げた。


「存分に遊び、踊り疲れたところを叩き込む。徹底的な希望と絶望を知らしめてやろうではないか。……来い、面白いショーを見せてやろう」


最終章の感想に飢えてます(*´ω`*)

よろしければ感想のほどを……

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