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トルフィンの部 【いまできることを】

 とりあえず、今夜は学校で休むこととなった。


 唯一ワープが使えるアルスも、さすがに連戦に次ぐ連戦で疲弊してしまったらしい。刑務所にも天使が押し掛けてきたところを、彼は単身で突破してきたのだ。そりゃあ疲れる。


 そして明日、充分に休息を取ったところで、レイア先生たちをアグネ湿地帯に移動させる――という手筈てはずだ。そこならば天使は手が出せない。


 もちろん、眠っている間に天使が襲撃してこないとも限らない。それに備えて、交代で見張りをつけることにした。


 トルフィン&リュア。

 セレスティア&アルス。

 この二人で順番に教室を見張るのである。


 そして現在は、トルフィンとリュアのコンビが、教室前の廊下で周囲を見張っていた。


「ねみぃ……」


 トルフィンはふあああっと欠伸をしながら、背筋を伸ばした。

 時刻はだいたい二十二時ほどか。

《引きこもり》たるトルフィンは、こんな時間に寝るほど良い子ではない。

 だが今日は色々ありすぎた。早く暖かいベッドに潜り込み、ぬくぬくと夢の世界に逃げ込みたい。

 交代時間まであと三、四時間……長すぎる。


「…………」

 対するリュアは静かなものだ。背中合わせで座り、互いの死角を補いつつ見張っているのだが、さっきから一言も発しない。


 彼女にとっても今日は激動の一日だった。きっと頭のなかで気持ちを整理しているのだろう。


 そんな彼女にちょっかいを出すほどトルフィンも野暮ではない。ただただ無言で、見張りに徹することにした。


 かすかな月光が、薄暗い廊下のなかに差し込んでくる。

 天使が暴れた後とあって、周囲はさまざまな物が乱雑に散らばっている。倒れたロッカー、勉強道具、傘など……。これらを使っていた生徒たちは無事に逃げ切れただろうか、それとも、もう……


 つい思考が後ろ向きになったとき、ふいに背後から声をかけられた。


「ねえ……トルフィンくん」

「ん? どうした」

「私、考えたの……私のお父さんは亡くなったけれど……でもね。それは私だけじゃないって」

「…………」

「こんなに大変なことになってるんだもん。私以外にも、お父さんを……ううん、大事な人を亡くした人がいるはずだって……」

「ああ、そうだな……」


 そこでリュアは、すがるようにトルフィンの片手を握った。


「だから私が頑張らなくちゃいけない。天使のステータス……む……えっと……」

「天使のステータス操作無効化」

「そう。私にはそれがある。だから、負けてられないって……」

「…………」


 トルフィンは思わず握られた手に力を込めた。


 彼女と出会ったばかりの頃を思い出す。

 何事にも引っ込み事案で、なにをするにもゴルムの後ろに隠れていた彼女が……変わったものだ。いや、変わらざるをえなかったというべきか。


「リュア。おまえは俺が守る。その約束を、俺は忘れない」

「……うん、ありがとう」


 ――俺も変わらなくてはなるまい。

 いま現在も、世界中の人間、モンスターが、天使に苦しめられているはず。彼らになにかできることはないものか……


「あ!」 

 トルフィンの頭にある閃きが舞い降りた。

「ど、どうしたの?」

「セレスティアさんとアルスを起こしにいこう。やりたいことができた!」


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