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シュンの部分 【悪魔】

「……あ」


 前方を歩いていたアリアンヌが、ふと小さな声を発した。彼女の可憐な金色の長髪が、風に乗ってふわりとたなびく。

 シュンは隣のロニンと目を合わせ、

「どうした?」

 と訊ねた。


 アリアンヌはくるりと振り向くと、やや安堵感のある声音で告げた。

「トルフィンさんたちに協力者が現れたようでね。どうやら勇者アルスの模様です」

「なんだと……」

 シュンはあんぐりと口を開けた。

「彼は創造神ディストにより、わずかながら神の霊気を授けられています。天使の《ステータス操作》も効きません。だからこれまで生き延びられたのでしょう」


 勇者アルス。

 彼が協力してくれれば、頼もしい味方になることは間違いない。大会の決勝戦ではトルフィンに敗れたものの、そもそものステータスではアルスのほうが上なのだ。


「よかった……」


 ロニンもほっと胸を撫で下ろした。アルスも久々に、勇者らしい行動に打って出たことになる。本来は服役しているはずだが、この緊急事態だ、細かいことは言っていられまい。


 アリアンヌはシュンたちを見回すと、数秒目を閉じ、再びゆっくりとまぶたを開けた。


「トルフィンさんたちはひとまず安心していいでしょう。……これより、本格的な修行を始めます」

「…………」


 シュンは思わず固唾を呑んだ。

 いつの間にか、シュンたちはひらけた場所に出ていた。あれほど視界を阻んでいた木々はなく、背の低い雑草が生い茂っている。まさに動き回るにはうってつけの場所といえよう。


「今回の修行のため、この周辺だけ伐採を行いました。……さあ、同胞たちよ、出番です」


 アリアンヌが言いながら片手をあげる。

 ――と。

 見るもおぞましい《悪魔》たちが、そこかしこから姿を現した。ゾンビのような男、サキュバスのような艶めかしい女、かつて相対した巨大蜘蛛まで。


 その数、五十三体。

 アリアンヌは同胞たちを見渡し、やや切なさを帯びた表情で告げた。


「当然ですが、皆かつては《神族》でした。天界から逃げる際、ディストにより、こうも禍々しい姿に変えられてしまったのです。明確な意識を持ちながらも、言葉を話せなくなってしまいました」

「ぴきー」

 アリアンヌの言葉に呼応するかのごとく、巨大蜘蛛が高い鳴き声を発する。


 それを聞いたロニンが、

「あ……」

 と言って眉の端を下げた。


「おまえ……言葉がわかるのか?」

「うん……ほんとに、辛い思いをしてきたみたい。私にはわかるよ」

「そうか……」


 残念ながら人族たるシュンにはわからない。だが魔王ロニンには彼らの意思が通じるらしい。

 悪魔たちは揃って、外見上は身の毛のよだつ姿をしている。

 しかしながら、彼らからは敵意や悪意はなんら感じられなかった。それどころか、シュンとロニンをどこか歓迎しているような雰囲気がある。


「お兄ちゃん。みんな喜んでるよ。自分たちの姿を見ても逃げられないからって」

「……はん。そりゃま、これでも人間とモンスターのトップだからな」


 鼻の下をこするシュン。

 アリアンヌは数歩だけ退くと、張りのある声を周囲に響かせた。


「シュンさん、ロニンさん。あなたたちには、これより五十三もの悪魔と戦ってもらいます。彼らはみな《神の霊気》を持っています。決して油断などしないように」


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