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ただの村人なわけがなかった

「な、なんだ……」


 人型モンスターはぽかんと口を開け、意識を失ったゴブリンを見下ろした。


 ーーいったいなにが起きた。


 ロニンの側近として、長い年数を戦いに費やしてきた。それだけに経験は豊富であると自負していた。


 魔王や勇者には適わないまでも、そこそこの実力は持ち合わせているはずだと。


 しかし、いま目の前に繰り広げられた光景は、その自尊心を完璧に抉るものだった。


 まったく見えなかった。

 いや、かろうじて、シュンがゴブリンに攻撃したところまでは見えた。


 しかしそれがどんな攻撃だったのか、どれほど重い一発だったのか、人型モンスターにはこれっぽちも捉えることができなかった。


 ーーありえない。この俺が……!


 そのシュンが、今度はこちらに目を合わせてきた。


 ぞくりと寒気が走る。

 無意識のうちに、人型モンスターは戦闘の構えを取った。


 シュンの構えは正直、素人感丸出しだ。これまでろくに《戦闘》というものをしてこなかったことが窺える。


 だからこそ油断していた。あんな奴はゴブリンですら簡単に倒せると。


 それが命取りだった。俺の軽率な判断で、部下を一体、死なせてしまった。


 ーーくそったれが……!


「ディスト様……」


 脇のゴブリンが不安げに名前を呼んできた。


「ディスト様、あの人間は何者でしょう……? ただの村人のくせに、仲間を一瞬で……」


「馬鹿者が!」


 人型モンスター……ディストは声を荒らげた。


「奴が《ただの村人》なわけなかろう! 奴が報告にあった要注意人物Bだ!」


 要注意人物B。

 オーク軍団を全滅せしめるに留まらず、魔王の娘までをも誘拐した危険人物。


 ただし、その素行は謎に包まれている。


 てっきりモンスター側の敵なのかと思っていたが、報告によると、彼はあの《勇者》アルスを戦闘不能にしたらしい。ちなみに要注意人物Aこそが、その勇者アルスだ。


 飛び抜けた強さ。

 そして意味不明な行動。


 それらをもって、魔王はこの村人を要注意人物に認定した。


「ほーん。俺、そんなふうに呼ばれてんのか」


 話を聞いていたシュンが、どこかとぼけた調子で言う。


「なら話がはええや。無駄な戦いだってわかってるだろ? めんどくせーから消えてくんねえかな」


 ーーくそっ。

 ディストは思わず舌打ちした。


 不思議に思うべきだった。

 ただの人間が、待ちかまえるようにこの場所に立っていたことを。


 きっとこの村人は、我々が村にやってくることを予見していたのだ。


 だから先手を打って、自分ひとりでここへ出向いたに違いあるまい。


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