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シュンの部 【過去へ】

 心のタガ。

 それを破壊するには、自分と向き合うことが必要不可欠であると――アリアンヌは言った。過去のトラウマを改めて直視することで、心の制約が外れ、タガが破壊されるのだという。


「ここです」

 アリアンヌがふいに立ち止まった。

 小さなほこらがそこにあった。ずいぶん古くから作られたのだと推察できるが、丁寧に清掃が行き届いているためか、どこか静謐せいひつな雰囲気が漂っている。その祠のなかに、水の入ったおわんが二つあった。


「これは……」

 ゴクリと息を呑みながらロニンが訊ねる。

神聖水しんせいすい。そのままですね。飲むと神の力が宿ります」


 アリアンヌいわく、いつかディストを倒す者が現れるのを期待して、長いこと精製してきたのだという。つまりこの水には、何百年ものアリアンヌの想いが詰まっている。

 ただならぬ雰囲気に、さすがのシュンもやや真剣味を帯びた表情になった。


「飲むだけでいいのか……? それだけで《神の霊気》とやらがモノにできるのか……?」

「そう簡単にはいきません。あなたたちは自分と戦っていただきます。それに勝利して初めて、神聖水に認められたことになるのです」

「自分と……戦う……?」

「まあ実際に飲んでみるのが早いでしょう。きっとあなたたちなら大丈夫です」


 言いながら、アリアンヌはお椀をひとつずつシュンとロニンに差し出してきた。シュンはおそるおそる椀の中身を覗き込むが、正直ただの水にしか見えない。だがどこか名状しがたい、かすかな圧力を感じる。


「それを飲み、あなたたちがいつ目覚めるのか……期待して待っています。さあ、お飲みなさい」

「お……おう」


 シュンはちらりとロニンに目を向けた。小さな妻が緊張した面持ちで頷くのを確認し、シュンは思い切って、椀の中身をぐいっと飲み干した。





 ――ここはどこだ?

 目覚めたとき、シュンはまるで見知らぬ場所にいた。

 ……いや。

 見知らぬ場所ではない。

 ここはかつてのシュンが通い詰め、そして忌避した、故郷の《学び屋》である。


 古い木造の室内に、小さな机が二十個ほど等間隔に並べられている。正面には黒板があり、これを用いて先生が勉強を教える。まだ授業の開始時間ではないので、一足早く来た子どもたちが、わいわいはしゃぎながら遊んでいた。


 気づけば、シュンの身体は丸ごと小さくなっていた。推定で六歳ほどか。

 シュンの故郷にシュロン学園のような巨大施設はない。しかし、村長が知識人を雇い、子どもに勉学を教えさせる《学び屋》は存在した。かつてシュンは他の子どもたちと同じく、この学び屋に通わされていた。


 ――過去に来たってことか。

 シュンは思わず大きな息を吐いた。

 そもそもシュンの故郷はアルスによって殲滅せんめつされている。アリアンヌが《過去のトラウマを直す》と言っていたことをかんがみても、昔に飛ばされた可能性は高い。


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