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国王シュン

 ロニンはこれまで、怠ることなく《修行》を行ってきた。

 前代魔王を倒した後も、定期的に一人の時間を作ることで、自身のステータスアップをはかってきた。その結果、シュンには及ばないまでも、魔王の名に恥じない強さを手に入れたと自負している。


 なのに。

 圧倒的な強さを得た魔王ロニンでさえ、いまこの瞬間、鳥肌が禁じえなかった。

 ディストが放った威圧感。

 まさに人の域を超えた、狂気的な霊気。


 ロニンは思わずベンチから立ち上がった。ディストから距離を取り、警戒心を最大限にまで高める。


「嘘……でしょ? アルスをあんなふうにしたのは貴方だったの?」

 するとディストはどこから取り出したのか、銀縁の眼鏡を装着した。

 長髪に眼鏡。そして現在なぜか白衣をまとっているディストは、どこか教師然とした雰囲気を放っている。

「ふふ、本来はまだ黙っておくつもりだったのだがね。ここでバラしておくのも一興いっきょうだろう」

「い、一興……?」

「そう。アルスの記憶を操作したのは私だよ。まあ……最初に声をかけたときはかなり警戒されていたがね」


 当然だとロニンは思った。

 あのときはセレスティア率いる《人間軍》と《モンスター軍》の戦争が終わったばかりだ。当時、ディストはその強さで人間軍を多く蹴散らしていた。身構えられるのも当然だ。


「でも……どうして……なんでアルスはあんなに強くなってたの……? 私もシュンさんも驚いたよ……」

「おや、まだわからないのかな?」


 ディストは眼鏡の中央部を指で持ち上げた。


「君の息子が不思議がっていただろう。ステータスというシステム――そしてスキルというシステムを」

「…………!」


 思わずロニンは息を呑んだ。

 なぜディストがそれを知っている。


「この世界は作られたものなのさ……我々《創造神》の手によってね」

「そ、創造神……」

「しかり。《ステータス》の生みの親たる我々にとり、他者のステータスをいじくることは朝飯前なのだよ」


 ステータスをいじくる……だと……?

 もし本当にそれが可能なのであれば、いますぐにでも全生物のステータスを0にすることもできる――ということになる。

 無茶苦茶だ。これまで相対してきた敵とは、まるで次元が違う。


「あなたが……いじくったってわけ? アルスのステータスを」

「ご名答。トルフィン君といい感じの試合ができるよう、絶妙な強さにしておいたのさ。おかげで良いものが見られたよ」


 そこで再び、ディストは眼鏡の中央を持ち上げた。


「ふふ……トルフィン君もなかなかの逸材だ。アルスの記憶が操作されていたことも見抜いていたようだね。さすがは前世でゲーム脳だったことはある」

「…………」


 ――トルフィンが転生者であることも知っているとは。

 ロニンはもうなにも言えなかった。

 いや、相手は神だ。転生者をロニンの身体に授けたこと自体、狙われていたのかもしれない。


「だが、お遊びも今日までだ。世界の秩序を守るため、これからすべての者のステータスを1にさせてもらおう」

「えっ……なにを……」

「なあに。事は一瞬さ。なにも怖くない」


 そう言って片手を突きだしてくるディストに、ロニンは数歩引いた。

 ――嫌。

 せっかくこれまで築き上げてきた強さを、なくしてしまうなんて……

 その瞬間だった。


「おいこら、なにしてんだてめぇ」

 国王シュンが、背後からディスト肩を掴んだ。



   ~第4章 【学園・武術大会編】 完~

 


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