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平和な祭り

 武術大会は終わった。

 見事優勝を飾ったトルフィン王子に、観客たちは沸いた。

 シュロン学園の女生徒などは、「きゃー! トルフィン様ー!」などと黄色い声をあげている。その他の観客たちもまた、強者トルフィンを褒め称えた。


 勇者アルスは騎士たちに担がれ、まずは病院に送られた。そこでしかるべき手当てを受けたのち、収容所にて罪を償ってもらう。搬送される際、彼はいっさいの抵抗もしなかった。


 祝福の声援を受けてもなお、トルフィンは暗い表情をしていた。シュンが問いかけると、リュアが心配なのだという。

 それを聞き、シュンは息子とともにシュロン国の病院までワープした。シュンの制止をものともせず、トルフィンは病室まで駆けだしていった。そしてリュアの無事を聞いたときには、トルフィンは膝を落とし、満面の笑みを浮かべていた。


 病室にはセレスティアもいた。リュアのことが心配で、レクスにワープしてもらったようだ。

 セレスティアが言うには、武術大会が終了した後、王都で祭りを開くのだと言う。自分はまだリュアの様子を見るから、先に祭りに行ってはどうかとシュンに催促してきた。


 シュンはそれに応じることにした。おそらく、いまのトルフィンにとって、そばに親がいることはあまり好ましくないだろうから。


 そうして。

 シュンは久々に、ロニンと王都でデートすることにした。


「わー、すごーい……」

 周囲を見渡しながら、ロニンは目を輝かせた。

 天を見上げれば、あちこちで風船が飛んでいる。所狭しと屋台が軒を連ね、店主たちが大声で商品のアピールをしてくる。

「あれ美味しそう……あ、これも美味しそう!」

「落ち着けよ……」

 思わず苦笑するシュン。


 まったくこの魔王様ときたら、大人になっても落ち着くということを知らない。

 ロニンはふりふりと尻尾を振りながら、むうと頬を膨らませた。


「だって美味しそうなんだもん。お兄ちゃんはなにか食べたいものないの?」

「ねえな。おまえの手料理が一番だ」

「……もう、そういうこと言う」

 頬を赤く染めるロニン。いくつになっても、子どもっぽさは消えないようだ。

「でもま、今日くらいはなんか屋台で食おうや。なにが食いたい」

「えーっと、えと、コッペパンとアイスとステーキと……」

「無茶苦茶だなおい」


 呆れて息を吐くシュン。


「とりあえず買ってきてやるよ。おまえはそこに座ってな」

 言いながらシュンは近くのベンチを指差した。

 ロニンはまたも頬を膨らませる。

「えっ、いいよ。私も買いにいく」

「いいから座っとけ。一緒に行ったら絶対《あれも食べたい》《これも食べたい》ってうるさいからな」

「むう……」


 反論できないロニンだった。


「わかったよ。お腹空かして待ってるからね!」

「へいへい」


 シュンの背中を見送りつつ、ロニンは一息つき、ベンチに腰を下ろした。


 ――でも、良かったな……

 王都とシュロン国の共同きょうどう武術大会。

 一時はどうなるかと思ったが、すべて丸く収まった。怪我人もいるし、無事に終わったとは言い難いが。


 ただし、まだいくつかの謎は残っている。アルスの記憶を操作したのは何者か。彼の言う《創造神》とはなんだったのか。それについてはまだ判明していないでいる。


 でも焦ることはない。

 ひとつひとつ解決していけばいい。シュンがいる限り、きっとなにもかもが平穏無事に解決するはずだ。


「いやぁ、相変わらずラブラブですな」

 物思いにふけるロニンに、ふと声をかけてくる者がいた。

「あ、ディスト……」

 シュロン国の幹部――ディストが、片手のソフトクリームを舐めながら歩み寄ってくる。

「セレスティア王女から王都にいると聞きましてな。探しておりましたよ」


 ――なんだろう。

 若干の寒気を覚えながら、ロニンはディストを見上げた。彼はモンスターで一番の部下のはずだ。なのに現在、例えようのない威圧感を感じる。


「ねえ、ディスト……」

「ハイ?」

「さっき、勇者が言ってたの。私たちを陰で監視・支援してる者がいるって……」

「ほう?」

「よくよく考えたら、ディスト……あなたがいなかったらシュロン国は成立しなかった。ピンチのときには必ず、あなたがいた」


 そう。

 魔王城を侵略したときも。

 人間軍とモンスター軍が争っていたときも。

 シュロン国にゴルム率いる人間軍が攻めてきたときも。

 必ずディストがいた。

 シュンのように目立つことはなかったけれど、きっとディストがいなければ、ここまでシュロン国が繁栄することはなかった。まさに絶妙のタイミングで彼はいた。


 そこまで考えて、ロニンは後頭部を掻いた。

 ――ありえない。

 たったこれだけのことでディストを疑うなんて。彼は変態ではあるが、一番の部下なのだ。


「ご、ごめんね……私、変なこと言っちゃって」

 両手を合わせて謝るロニンに、ディストもさすがに乾いた笑みを浮かべた。

「ロニン様……いくらなんでも今のは傷つきましたぞ」

「ごめんってば。悪かったよ」

 瞬間。

 ディストは片頬を吊り上げた。

「――だが、ロニン君。悪くない推理だったよ」

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