汚いゴブリン
何分走っただろうか。
駆け抜けながら、シュンはちらと背後を振り返った。
生まれ故郷たる村はもう見えない。
周囲に広がるのは、無限に広がる草原のみ。
背の低い芝や、色とりどりの花が地平線まで続いている。
空を見上げると、ぎらぎらと照りつける太陽。
美しい場所だ。
いまからここを血に染めるのは惜しい。
だが仕方あるまい。あと何分かもすれば、モンスターの大群がここを訪れるだろう。
シュンはぴたりと足を止め、ふうと息を吐いてみせた。
彼にとって、村が見えなくなる距離まで走ることは造作もないことだ。
ちょっとは疲れてしまったが、息切れもしてないし、このくらいは屁でもない。
ーー俺はなにしてるんだろうな。
ロニンとはたった一週間前に出会ったばかりだ。それなのに、俺がここまでするなんて。
もう辞めたはずだった。
他人に興味を持つことなど。
自分が傷つくだけだから。他人を信じて良いことなんてなかったから。
そこまで考えて、シュンはふっと笑った。
また昔のことを思い出してしまった。最近多いな。
余計なことを考えてはいけない。いまはやらねばならないことがある。
数分後。
ザッザッザという夥しい足音とともに、近づいてくる気配があった。それは確実に、シュンの立つ地点へ近づいてくる。
やがて何十体ーーいや、何百体ものモンスターがこちらに進軍してくるのが見えた。
そのほとんどがゴブリンだ。
小さな身体に反して、でっぷりと膨れ上がった腹部。焦げ茶色の肌はどことなく不潔そうで、片手に大きな金槌を携えている。
ゴブリン。職業剣士であればたいしたことのない相手だ。
だが、こと村人は違う。
村人というのは、いわば《戦いの才能》から見放された雑魚だ。モンスター中で最弱のゴブリンですら、一対一でも勝てない。
そんなモンスターを、百体近くも派遣させてくるとは。
ーー完全に村を潰すつもりで来やがったな……
シュンは小さく舌打ちをした。




