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引きこもってたら強くなってました


「なににビビってるのか知らねえが、おまえはここで死ぬんだぜ。おとなしくしてろや」

「へ? 俺ここで死ぬの?」


 オークのドスの効いた声に、シュンは目を点にする。

 だって困るのだ。

 別に生への執着があるわけではない。人生の大半を自室で過ごしていた彼にとって、これといって目標もない。

 単純に死にたくない。

 というより、童貞のまま死にたくないのだった。


「そりゃあ困るなぁ。村に返してくれよ」

「はあ? 馬鹿かテメェは。さっきの話を聞いてなかったのかよ」


 オークはオホオホと太い鼻を鳴らして言った。その息づかいが、なんだかさっきの悪夢に似ているようで、シュンは思わずぞくりとする。


「テメェらは《勇者》を殺すための人質なんだよ。返すわけねえだろうが」

「ふざけんな。人質になんかなりたくねえぞ俺」

「は、話の通じねェ奴だな……」


 シュンの常識外れな発言に、さしものオークも呆れを隠せない。


「逃げようたって無駄だぜ。村人はみんな、別の牢屋に捕らえてある。ひとり残らずな」

「ほぉん?」

「かといって、《勇者》の助けなんか期待するんじゃあねえぞ。奴は今日、ロニン様によって殺される運命なのだ!」


 うっせー豚だなぁ。

 シュンは小声で悪態をつく。幸いにも豚には聞かれなかったようだ。


「で? そのロニンって誰よ」

「知らないのか? 魔王様のお子にして、魔王様に次ぐ実力者だぞ!」

「ほーん」


 ーーってことは、そのロニンって野郎が事件の首謀者か。

 シュンはにたりと笑うと、右手で鉄格子を掴んだ。


「じゃあ、そのロニンって奴をぶっ飛ばしにいくとするか」

「……は?」


 オークは数秒目を瞬かせると、弾けたように大笑いをした。


「わっはっはっは! テメェがロニン様を倒すだって? 馬鹿か! ただの村人が、魔王様のお子に勝てるわきゃねえだろうが!」

「はは……そうかな?」


 ただの村人。

 まさにその通りだ。

 しかし、だからこそーーシュンは他の者にはない強さを抱えていた。


 当のシュンは預かり知らぬことだが、この《世界》において、引きこもりは彼ぐらいしかいない。若い者は働かなければならないーーという観念がかなり強いからだ。

 その状況にあって、シュンは他の者にはないスキルを持っていた。


 すなわちーー引きこもりレベル999。

 数年間も引きこもっていた彼にしか持ち得ないステータスである。


 この事実を彼が知ったのは、つい昨日のことだ。

 昨晩のモンスターの襲撃において、シュンはかすり傷ひとつ受けなかった。オークが全力で振りかぶった棍棒さえ、彼にとってはすこしかゆかっただけだ。あまりにちょろくて居眠りしてしまうほどに。


 自身のステータスに浮かぶ、《引きこもりレベル》。

 どうせたいしたことないだろうと思っていたステータス。

 だが、これしか考えられないのだ。自分の化け物じみた強さは。


 シュンは鉄格子を掴むと、

「そいや」

 軽く力を入れてみた。


 途端。


 バキン!


 乾いた音を響かせながら、鉄格子の一部が破壊された。シュンの右手には、砕かれた鉄片が握られている。


「ば……馬鹿な……」

 格子の向こうで、オークが数歩後ずさる。

「俺でさえビクともしない牢屋を……そんな、馬鹿な……。おい、聞いてねえぞこんなの……」

「バカバカうるせえよ。これが現実だ」


 シュンはもう一度、次は拳を鉄格子に打ち付ける。

 彼の拳から放たれた衝撃が、波のように鉄格子に広がっていき。

 またしても、バキンという音を響かせながら、鉄格子が全壊した。


お読みくださいましてありがとうございます。

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