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アルスの昔

 勇者アルスに故郷はなかった。

 いな――破壊されたと言ったほうが正確だろう。


 それはアルスがまだ幼い子どもだった頃。

 突如モンスターが村に襲来した。

 真っ先に食料庫が襲われたことから、食事が目当てだったと言われている。モンスターたちは無慈悲に村人を殺害し、遺体すらも残らず燃やし尽くした。

 非力な女子どもでさえ、一瞬のうちに殺害された。


 アルスだけが生き残った。

 当時からアルスは非凡なステータスを持っていた。物理防御力、および魔法防御力が高かったため、油断しきっていたモンスターの攻撃では死ななかった。いや――死ねなかったというべきか。


 皆殺しにあった村のなかで、アルスだけがかろうじて生きていた。幸運なことに、老いた行商人に拾われ、その後アルスは世話好きな老人に育てられることになる。


 アルスは本当にちやほやされた。

 なにしろモンスターの襲撃に耐えてみせたのだ。ステータスも高いし、こりゃあきっと将来大物になるだろうと期待された。拾ってくれた行商人にはかなりの貯蓄があった。アルスに剣と魔法を拾得させるため、凄腕の教師をアルスにつけた。剣も魔法も使いこなせるのは、そのときの教育があるからだ。


 ――おまえは将来、魔王を倒すほどの男になるんだ。だから頑張れよ、負けるなよ――

 それだけ言い残して、行商人は亡くなった。老衰であった。


 アルスは決意した。自分の親も、友も、故郷さえも奪ったモンスターを必ず滅ぼしてやると。魔王なんぞいますぐにでも討伐してやると。そうして各地を歩き回り、モンスターから人々を救っていくうち、誰かがアルスを《勇者》と呼び始めた。


 いわく、人類最後の希望。

 いわく、我々の希望の星。

 魔王を倒せる者はアルスしかいない。


 そんな噂が瞬く間に広がっていった。エルノス国王に呼び出され、当時未熟だったセレスティアの護衛を任されるほどに。

 エルノスは相当の策略家だった。騎士たちに的確な指示を出し、モンスターの領土を着実に奪っていった。数年後には、魔王城の近辺だけがモンスターの生息区域になってしまうほどに。

 戦況は明らかに人間側に傾いていた。このまま魔王を殺しさえすれば、きっと長かった戦争にも歯止めがつく。そしてその魔王を討伐する者といえば間違いなくアルスであると――誰もが信じて疑わなかった。


 そんななか、アルスはとある《情報》を掴む。

 魔王の娘ロニンが、大勢の部下を従えて、近くの村を襲撃していると――

 これを聞いたアルスは激高した。

 同じことを繰り返させるわけにはいかない。必ず村人たちを助け出してみせる。

 アルスは数秒の迷いもなく、ロニンがこもっているとされる洞窟に潜入した。

 そこで奇っ怪な村人に出会う。

 彼の名をシュンといった。


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