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必殺技

 ――すごい戦いだ。

 控え室で待機しているトルフィンは、ぽかんと口を開けながら、ぼんやりとそう思った。


 これまでの戦いとは一味も二味も違う。目にも止まらぬ剣の応酬、常人では受け止めることもできない剣戟……


 そしてその感動は、トルフィンのみならず、ほとんどの観客が感じ取っていた。審判ですら、自身の立場を忘れて試合に見入っている。

 一番興奮しているのはゴルムだった。「リュア! あいらぶリューア!」などとしきりに叫んでおり、近くにいるシュンが引き気味にそれを見つめている。


 この大会、見にきてよかったと――誰もが思った瞬間だった。


 アルスは自分の左腕をじろりと眺めていた。さきほどのやり合いの最中、リュアの剣先がわずかながら掠めたのである。垂れている血を無表情で舐めながら、アルスはリュアに視線を戻した。


「正直侮っていたよ。まさか貴様のような小娘が、これほどの実力を持っているとはね」

「あ、当たり前だよ。トルフィンくんと頑張って鍛えたし……」

「はっ。トルフィン王子か。……では、これはどうかな?」


 アルスは左手を剣の柄に添えると、そのまま滑るように刀身を撫でていった。シュイイン……という音とともに、剣が漆黒に染まっていく。


「俺の昔からの必殺技、黒真剣こくしんけん……受けてみるがいい」


 トルフィンはぴくりと眉を動かした。

 黒真剣? あいつの必殺技って、そんな名前だったか? シュンの昔話を聞いている限り、たぶん違うはずなのだが……

 一方、リュアはごくりと息を呑むと、改めて剣を構え直した。


 アルス。

 彼が強者とあがめられ、勇者とまで呼ばれるようになった理由は、その剣の腕だけではない。剣と同時に魔法をも達人級に使いこなすところから、人々からは救世主として尊敬されてきた。もちろん、シュン&ロニンもどちらも使いこなすが、この二人は例外である。リュアもそれを知っているから警戒を怠らない。


「いくぞ!」

 大声を張るや、アルスは剣をそのまま斜めに振り払った。瞬間、斬撃そのものが具体化し、漆黒の波動となってリュアに襲いかかる。その禍々しさたるや、さながら死神の鎌のよう。触れたが最後、生きては帰れない。


 リュアも黒真剣の危険さを察知した。まともに喰らえば自分が死ぬことも。

 だが、リュアとてずぶの素人ではない。

 修行の最中は、ずっとトルフィンの《魔法の的》となってきた。本来の目的ではないが、知らず知らずのうちに、魔法への対処法をも身につけていた。


「せいいいいっ!」


 気合いのこもった発声とともに、リュアは波動そのものを切断した。


 ジュシャア! という大音響とともに黒真剣は縦に切り裂かれ、両端の部分だけが空しく宙を駆けていった。黒真剣の残滓ざんしは途中まで宙を走ったものの、徐々に薄れていき、やがて消えた。


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