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これが俺にできる唯一のこと

 やっと家に着いた。


 ふわあっと大きな欠伸をしながら、シュンは自宅の前で背伸びした。


 ーー疲れた。マジで。


 先の戦いを除けば、ほとんど外出などしなかったシュンである。


 それがロニンにねだられたからとはいえ、自分から外に出るとは。


 口の端に自嘲の笑みを刻みながら、シュンは扉の取っ手を掴む。


 瞬間。

 シュンはぴくりと動きを止めた。


 ーーこの気配。


 まさか。


 シュンは険しい表情を浮かべたまま、沈鬱な声を発した。


「ロニン。先に入ってろ」


「……え?」


 目をぱちくりさせるロニン。


「大事な用を思い出してな。すぐに帰ってくる。先に入ってな」


「う……うん」


 ロニンには否やのあろうはずもなかった。


 むしろ、一刻も早く帰宅しなければ、せっかくの引きこもり生活が無駄になる。


 言われるままに、ロニンはひとり家に入った。


 ーーでも、変だ。


 シュンが《大事な用》だって?

 ほとんど村民と交流がないくせに、いったいなんの用があるというのか。


 さっきまであんなに帰りたがっていたのに。


 それら不審な点はあったものの、ロニンは素直に自室に戻った。


 妙な胸さわぎを、無理やりに抑えつけながら。


    ★


 ーーやはり来たか。


 妙な胸さわぎを無理やりに抑えつけながら、シュンは走っていた。


 途中、驚いたように村人たちが振り返ってくるが、気にしていられるほどの余裕はない。


 ーー急がなければ。

 ーー急がなければ。


 さっき感じた悪寒。

 あれは気のせいなどではない。


 間違いなく、大量のモンスターが村に向かってきている。


 そして、その原因も明らかすぎるほどに明らかだった。


 魔王の娘、ロニン。

 モンスター中でも地位の高い彼女を、魔王側が放っておくはずがないのだ。


 きっとこの一週間、死にもの狂いで捜索していたに違いない。


 こうなることはわかっていた。

 魔王の娘を(かくま)うということは、これだけの危険が伴うのである。


 しかし、それでも約束したのだ。


 最低でも彼女が《引きこもり》を取得するまでは守ってやると。


 たかだか一ヶ月間。

 彼女には冷たい男だと思われたかもしれない。

 だがシュンにとっては途方もなく長い日数でもあるのだ。


 それでも構わない。

 そもそも良いイメージを持ってもらおうとも思っていない。


 ただ、ロニンという少女のため。

 シュンは村から遠く離れた場所へとひたすらに走った。


 それが、分かちあえるはずもない彼女のためになると信じて。

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