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恐ろしき六歳の無双劇

 始めの試合が終了した。

 観戦していた選手たちは、ほとんどの者がうおおおと歓声をあげている。

 彼らとて己に絶対の自信を持つ戦士たちだ。

 この大会に興奮を隠しきれないのであろう。


 審判はその声を制すと、張りのある声で叫んだ。


「では次の選手を発表します。トルフィン選手、そしてアーレ選手! 舞台にお上がりください!」


 ――お、もう俺か。

 トルフィンは片手をあげると、ちょこんとジャンプし、舞台に上がった。続いてアーレと呼ばれた選手も姿を見せる。動きやすそうな胴着を身にまとっていて、武器は携えていない。たぶん素手で戦うタイプか。


 トルフィンがそう分析していると、周囲からひそひそ声が聞こえてきた。

「彼が……シュロン国の王子の……」

「シュン様のお子か。しかしさすがに武術大会などとは……」

「無理であろうな。まだ六歳だと聞く」


 それらの声を聞いて、トルフィンは苦笑せざるをえなかった。

 彼らの意見は最もだ。最初からわかっていたことではあるが、出場者はみんな大人たちだ。そのなかにあって、トルフィンとリュアは明らかに浮いている。


 疑われても仕方がない。国王に甘やかされて大会に出場したのではないか――と。


 トルフィンは長身のアーレを見上げると、両手を合わせ、お辞儀をしてみせた。


「僕が王子だからって、手加減は不要です。容赦なく戦ってください」

「おやおや」

 深いしわの刻まれた顔面を掻きながら、アーレは優しい微笑みを浮かべた。

「お心遣い感謝致します。ぜひとも試合を楽しみましょう」

 と言いながらも、アーレは一切構えるようすを見せない。ほぼ棒立ちになって、試合開始の合図を待っている。


 ――やっぱ、舐められてっか。

 そりゃそうだよな。

 俺はまだ六歳だし。

 相手は歴戦の戦士っぽいし。

 王子だから一応の敬意は持たれているようだが。


 まあいい。相手がどんなふうに出てこようが、俺は油断なく戦うまでだ。


 トルフィンは鞘から剣を抜き、ぴたりと正中線に構えた。また、いつでも魔法を放てるよう、手先に魔力を集中させることも忘れない。


 そんな彼の構えを見るや、アーレはわずかに目を見開いた。


「む、この尋常ならざる気配は……!」

 慌てて構え直そうとするアーレだが、時すでに遅かった。試合開始の笛が、審判によって響かされたからである。

「はああああっ!」

 トルフィンは思いきり地を蹴り、アーレに向けて突進した。そのまま舞うように剣戟を浴びせていく。観戦していた戦士のうち、数名はその軌道がまるで見えていなかった。


「ぐおっ……!」

 初動の遅れたアーレは、なすすべもなく避けることに徹した。反撃を差し挟む間もなく、トルフィンが次々と打ち込んでくる。

「悪いですが速攻で勝たせていただきます。さようなら――」


 トルフィンは小さく呟くと、剣を片手に持ち替え、空いたほうの手をアーレに向けた。


「舞え。一陣の風よ――」

 瞬間。

 どこからともなく発生した風が、避けることだけに夢中だったアーレを見事に捉えた。

「ば、馬鹿な……! こんなことが……!」


 このとき、アーレは後悔した。子どもだからといって侮っていた、数秒前の自分を。しかしいくら足掻いても、風に捕らわれて自由に動くことが出来ない。


 ひょい、と。

 あまりにもあっさりと、アーレは場外に落ちた。

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