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六歳の決意

 静かだった。

 さっさと眠るつもりだったのか、リュアが速攻で部屋の明かりを消してしまった。

 王城の客室だけあって防音はしっかりしている。室内はもう、リュアの寝息以外、なにも聞こえない。


 真っ暗、そして無音。


「……あれ、トルフィンくんがいるからかな。眠れなくなっちゃった……」

 ふいにリュアが言い出した。

「……俺のせいなのか」

「ううん、そうじゃないけど……なんか、よくわかんないけど……恥ずかしくなっちゃった……」


 おいおい。

 ここにきて急に恥じらうんですか。俺にどうしろと。


 モゾモゾと、リュアはトルフィン側に寝返りをうった。

 至近距離に可憐な女の子の顔。

 前世で童貞のまま死んでしまったトルフィンにとって、思わずドキッとせざるをえないシチュエーションであった。


「……今日はありがとね。楽しかった」

「俺はなにもしてないさ。一緒に修行して、一緒にメシ食っただけだしな」

「でも、私、トルフィンくんに会えてよかった。だから嬉しいの」


 ――たしかに。

 昨日、初めてリュアと会ったときと比べれば、だいぶ心を開いてくれているような気がする。

 それだけ信頼してくれているんだろう。


「ねえ、トルフィンくん」

「お?」

「もし、よかったらでいいんだけど……手、繋いでよ」

「……マジか」


 さすがは女子ということか。こと恋愛というジャンルに関しては進んでいるようだ。


「まあ、いいけど」

 なにげなく答えたトルフィンだっったが、もちろん内心バクバクである。差し出された小さな手を、おそるおそる握りしめる。


 前世ではまるで起こりえなかったことだ。

 誰かに求められることなんて。

 誰かに感謝されることなんて。

 このわずかな温もりに接しているだけで、前世からずっと開いていた穴が、ゆっくり塞がれていく気がする。


「あのな、リュア」

「……なに?」

「訳あってな。俺は毎日、学校には行けなくなる。やらなきゃいけねえことがあるんだ」

「え。そんなの……やだよ」

「その代わり、学校に来たときにはめいっぱい修行してやる。だからおまえも、ひとりでもちゃんと鍛えろよ」

「う……うん、わかった」


 素直に頷くリュアの頭を、トルフィンは優しく撫でてみた。


「むう。なんだかお兄ちゃんみたい」

「……ま、まあ実際に年上だしな」


 国王シュンが言うには、今後、得体の知れない勢力が襲ってくる可能性が高いという。だから武術大会を開催するのだと。


 ――リュア。せめてこいつだけは、俺の手で守ってやんよ――

 ぎゅっと小さな手を握りしめながら、トルフィンは決意を固くするのであった。


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