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尻尾があるだけでこんなにも変わる

「お、おいしい……」


 ロニンはコッペパンを頬張りながら、惚けたように呟いた。

 そのまま物も言わず、速攻で丸ごと平らげてしまう。


 この光景には、さしもシュンでも穏やかな気分にならざるをえなかった。


 いい歳をした女の子が、パンなんかにいちいち喜んでいるのだから。


「ほれ。ジャムついてっぞ」


 言いながら、シュンはロニンの口元を拭ってあげる。


「あ……。ありがと」


「せめて行儀はよくしてくれよ。これ以上は目立ちたくない」


「う、うん」


 ロニンは虚ろな返事をした後、二つ目のコッペパンを見つめながら呟いた。


「人間の世界って、いいね……」


「は?」


「お父さんは言ってた。人間の世界は汚いって。モンスターを問答無用で殺してくるって。だから絶対に滅ぼさなきゃいけないって……」


「…………」


「だけどそうは思えない。最初、お兄ちゃんに会ったときからそんな気がして……」


 シュンはなにも答えなかった。


 自身もパンを食しつつ、ロニンにコッペパンを差し出した。


「ほれ、食え」


「……うん」


 そのまま、ロニンはちびちびとコッペパンをかじり始める。その表情はどこか寂しそうだ。


 ーーこの空気。めんどくせぇ。

 バツの悪さを感じながら、シュンは言った。


「俺もさ。おまえとまったく同意見だよ」


「……へ?」


「おまえと会うまで、モンスターなんてただの乱暴な獣だと思ってた。だがおまえを見てる限り、そうでもないらしい」


 そもそもシュンは外の世界をほとんど知らない。

 だからモンスターと接触したことなんてほとんどないし、ただ親の言うままに、モンスターを近寄ってはいけない存在だと決めつけていた。


 けれど。

 いま目の前にいるロニンは、人間とどこも変わらない。


 それこそ尻尾の存在にさえ気づけなければ、彼とてモンスターだとは思いもしなかったろう。


 だからシュンにとっても、一週間前の自身の行動が不思議でならなかった。


 なぜ魔王の娘を助けたのか。

 なぜ憎むべきモンスターを救い、勇者なぞと敵対してしまったのか。


 ーーちっ、こんなこと考えたくもねえよ。


 久々に真剣なことを考えながら、シュンはパンをかじり続けた。


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