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人界の王セレスティア

 シュンたちは分担して村の《清掃》に取りかかった。


 トルフィンは墓の作成を。

 ロニンは火消しを。

 シュンは遺体の運搬を。


 一家にとって、今日は濃密な一日となった。

 午前中はシュロン学園の入学式。そして夜にはこの騒ぎだ。


 ――いや、それだけじゃない――

 シュンは額を拭いながら、せっせと墓づくりに勤しむ息子に声をかけた。


「……なあ、トルフィン」

「んお?」

「いつもこの時間にゃ寝てたろ? 眠くねえのか?」

「父上よ。そりゃ寝るフリだ。生活リズムがトチ狂った元引きこもりを舐めんなよ」

「……はっ、言ってくれるぜ」


 薄い笑みを浮かべ、シュンも自分の作業に戻った。


 今日トルフィンの素性が判明したことは、何物にも代えがたい功績だと思う。

 彼は将来有望な息子だ。引きこもりのレベルをもっと上げていけば、年齢というアドバンテージがある分、いつかはシュンより強くなるだろう。

 現時点においても、一般的な騎士よりはトルフィンのほうが強い。しかも精神的にもそれなりに熟しているようだから、かなり有望株だ。


 そんなことを考えながら作業に取り組んでいると――


 ふいに、近くの地面に幾何学模様が発生した。誰かがワープしてくる予兆だが、いったい誰が……

 そんな疑念は、次の瞬間、驚愕とともに吹き飛んだ。

 人界の王セレスティアが、数名の魔術師を従えて、その幾何学模様の上に現れたからだ。


 ――そういや、そっか。

 エルノスの親衛隊には、転移魔法を使える魔術師がいたはずだ。彼らと一緒にワープしてきたのだろう。


「あ、シュン……」

 金髪の女王は、シュンを見、そして村を見渡すと、もう一度シュンに視線を戻した。

「ど、どうしてここに……? それよりも、この状況、どういうこと……?」


 当惑するセレスティアに、シュンはこれまでの経緯を軽く説明した。

 ロニンが《悪魔》の気配がすると言ったこと。

 慌ててワープしてみたら、村が壊滅状態になっていたこと。

 遺体の状態を見るに、《悪魔》の仕業とは思えないこと。


 それらの話を、セレスティアは神妙な面持ちで聞いていた。彼女も通報を受け、みずから視察しにきたらしい。


「事情はわかったわ。なにからなにまで、ありがとう」

 話を聞き終えたセレスティアは、開口一番、そう言った。

「私たちも悪魔の動向には目を光らせてるんだけど……駄目ね。いつも逃げられる。シュンさん、ごめんね。その、あなたの故郷を守れなくて……」

「ん? あー、これはおまえの責任じゃねえよ。明らかになにか、不穏なことが起きてる」

「ええ……」


 セレスティアは表情を引き締め、ゆっくりと頷いた。


「悪魔の動きもだいぶ活発化してる。騎士たちには苦労かけてるけど……それでも、静まる気配がないわ」

「……そうか。こりゃマジで、大きな戦争になるかもな」

「ええ……。そうならないように、ちょっとずつ敵を仕留めていきたいんだけど……悪魔にも知能があるみたい。毎回、いいところで逃げられる」


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