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家族会議

 シュロン国は本当に豊かになった。


 建国当初は最低限の衣食住でしのいでいたのだが、あの頃の面影は全くない。シュンは豪勢な城で暮らすことができるし、また、食事も望みさえすれば一級品をこしらえることができる。いまも、メイド達に作ってもらった大皿の料理を、シュンは家族三人で囲っていた。


 ――のだが。

 色とりどりな食事群とは裏腹に、室内はやや重たい空気に包まれていた。


「さて」

 食事には手をつけず、シュンはソファにもたれた。向かい側にはトルフィンと、そしてロニンが座っている。

「話してもらおうか。今朝のことをな」

「え……ええ……」

 トルフィンは居心地悪そうにうつむきながら、ぽつぽつと話し始める。

「えっと、さっきお話したように、僕は前世の記憶があって、それで――」


「待った」

 片手を出して止めるシュン。

「なーんか違和感あるんだよな。そんな気持ち悪ぃ話し方しなくてもいい。素のおまえを出してくれ」

「え……し、しかし」

「安心しろ。おまえが豹変しても俺たちは引かない。おまえは俺たちの息子だ。そこに変わりはねえだろ?」


 シュンの発言に、ロニンもこくりと頷いた。可愛らしい微笑を浮かべて、トルフィンの背中をさする。


「そうだよ。どんなことがあっても、私たちはトルフィンが好きだから」

「そ……そうですか。それなら……」


 トルフィンはこほんと咳払いし、なおも迷ったように両親を見渡してから、小さい声で続けた。


「……さっきも言ったように、俺には前世の記憶がある。前世では引きこもりでな。みんなからの嫌われ者だった。十六歳のとき、事故に遭って死んだ」

「十六歳……そうか……」

 呟きながら、シュンは頭のなかで計算を繰り広げた。


 ということは、トルフィンは前世の分を含めれば二十一歳になる。ロニンとは一歳しか変わらないし、シュンともほぼ同い年だ。


 ロニンが苦笑を浮かべて言った。

「いまの話し方……なんかシュンさんに似てるね」

「まったくだ。しかも前世では引きこもりと来たもんだ」


 どうりで、小さい子どもにしては《引きこもり》への適応力が高かったわけである。さすがにシュンも六歳の頃から引きこもっていたわけではなかった。


「トルフィン……その、どうだったの? 昔のトルフィンは、どんな生活してたの?」

 ロニンの問いかけに、トルフィンは影のある笑みを口の端に浮かべた。

「どうもこうも。最低だったよ」

「……え?」

「コミュニケーションが下手すぎるせいで友達からは隔絶。勉強もできない。運動もできない。くっだらねえ性癖だけがあった。親もさぞ、俺のことが嫌いだったろうよ」

「そ……そう」


「トルフィン。そのことが原因で、おまえは引きこもりになったのか?」

「そうとも言えるかもしれない。とにかく、まわりに《人間》を置きたくなかった」


 シュンは大きく息を吐き、もう一度、ソファにもたれかかった。

 ――似ている。似すぎている。

 シュンも過去、仲の良かった友人たちに裏切られたことがある。

 だから辞めたのだ。他人に興味を持つことを。どうせ自分が傷つくだけだと、当時のシュンは感じてしまったから。ロニンと会わなければ、いまでもその考えを引きずっていたかもしれない。


「……引きこもり、か。変な《職業》だよな。前世ではやっぱり、おまえはすげー強さだったのか?」

「……いや」

 トルフィンは再び迷ったように俯くと、意を決したように口を開き、衝撃の事実を告げた。

「俺の前世に、ステータスとかいう概念はなかった。攻撃力とか防御力とか、そんなものはコンピューターゲームの世界だった」

今後の参考にしますので、アンケートのご協力をお願いします。

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