表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/263

引きこもりの継承

 入学式まで残り三十分。

 手合わせをするには充分な時間がある。

 トルフィンは警備員から木剣を二つ拝借し、片方をリュアに授けた。可憐な幼女はなおも悩んでいたようだが、意を決したように剣を受け取る。


 ――王子と騎士長の娘が手合わせをする。

 このニュースはあっと言う間に周囲に広がっていった。

 ロータリーで対峙するトルフィンとリュアを、大勢の国民が取り囲む。気づけばわーわーと歓声が沸き起こり、もう大変な騒ぎだ。


「あ、あうぅ……」

 熱狂に気圧されてか、リュアが目を白黒させる。

 思わず苦笑しながら、トルフィンは木剣を構えた。

「まさかこんな騒ぎになるたァな。さすがに予想外だったよ」

「ト、トルフィンくん、私なんだか恥ずかしいよ……」


 頬を真っ赤にするリュア。


「大丈夫さ。父さんに訓練してもらってんだろ? いつもみたいにかかってこいよ」

「で、でも……」

「いいのか? 俺はゴルムさんより強いかもしれないぞ? 油断してたらおまえが危ないぜ」


 正直なところ、このセリフはいらなかったかもしれない。

「つ、強いもん……」

 幼女は身体を震わせながら、かすれた声を発した。

「私のお父さんは、誰よりも強いもんっ!」


 瞬間、リュアは剣先をこちらに向け、戦闘の構えを取った。先程までの甘さは一切はない。まさに剣士としての面構えだ。


 トルフィンはごくりと唾を飲んだ。

 まるで隙が見当たらない。

 大きなクチを叩くだけあって、彼女の強さは本物のようだ。


 ――面白い。

 俺だって国王と魔王の息子なんだ。

 剣の手ほどきを受けたことはないが、血筋では劣っていないはず。あのシュン国王も、俺のステータスを見て満足げにしていたのである。相手にとって不足なし。


 トルフィンも同じく木剣を構え、相手の攻撃に備える。

 極限にまで高められた集中力が、周囲の歓声を意識の外に追いやった。トルフィンの視界には、もはやリュアの一挙手一投足しか映っていない。


「……はっ!」

 その彼女が、勢いよく地を蹴った。タタタタタ……という小気味の良い足音を響かせ、トルフィンに迫ってくる。

 そのスピードに、さしもの彼も驚嘆せざるをえなかった。明らかに《六歳》の域を超えている。


 いや、それどころの話ではない。

 前世においても、あれほどの動きができる者はなかなかいなかったように思う。つまり彼女は、六歳にして大人の域に達してしまっているわけだ。ゴルムの教え方がいいのか、あるいはリュア自身の才能か。


「せいいっ!」

 思い切り振りかぶられた剣先が、猛烈な勢いでトルフィンに襲いかかってくる。普通の六歳児であれば、反応もままならずに打ちのめされるだろう。


 ――だが。

 バコッ!

 木剣と木剣が衝突し、盛大な音を周囲に響かせた。


「えっ……!」

 驚愕の声を発したのは、攻撃をしかけたリュアのほうだった。

 それだけに衝撃的だったのだ。


 ――自分の剣を、まさか受け止められるとは。


「うそ……。防いだ……? 私の剣を……お父さんじゃないのに……」

 トルフィンは余裕の表情でリュアの木剣を受け止めていた。まるで息をするように、ごく自然に。


「なに寝ぼけたツラしてんだ。俺はまだまだいけるぜ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ