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ピュアすぎて心が痛い

 片やシュロン国の王子。

 片や騎士長の娘。


 このコンビが注目されないわけがなかった。

 トルフィンがリュアと手を取り合って歩いているさまを、多くの国民がぽかんと見つめている。


 ときおり、「王子様ー」と手を振られるので、トルフィンは笑顔で応える。これくらいはシュンと何度も練習したことだ。


 何分そうしていただろう。ふいに、背後のリュアが話しかけてきた。

「ね、ねえ……」

「ん? どした」

「こ、怖いよ。女の子の目線が……」

「女の子の目線……?」


 確かにそうだった。

 気づけば、トルフィンたちに黄色い声を投げかけているのは、男児か大人たちだけ。幼女たちは決まって厳しい目線を向けている――リュアに。


 彼女はそれが怖いと言っているのだ。

 ――やれやれ、嫉妬か? モテる男は困るぜ……

 と一瞬思ったが、そうではないことはトルフィンにもわかっていた。


 トルフィンは王子である。もし結婚できれば、玉の輿どころの話ではない。娘一族も莫大な権力を手にすることができるわけで、だから幼女たちは親から吹き込まれているに違いなかった。王子トルフィンとは絶対に仲良くしておきなさい――と。


 彼女たちはトルフィンが好きなのではない。トルフィンの権力が好きなのだ。


 落ち着け、キョドるな……

 そう意識しながら、トルフィンはあくまで平静を装った。

「なに気にしてんだ。あんなの放ってこうぜ」

「え、でも……」


 そこでリュアは歩みを止める。トルフィンも足を止め、彼女に向き直った。


「私、怖い……。また友達なくしたくない……」

「…………」

 また友達をなくしたくない……ということは、過去に友人から見放された経験があるのだろう。その理由まではわからないが。


 トルフィンはなんとなく理解した。リュアの性格を。彼女がなぜこうまで臆病なのかを。


「俺はいなくならないよ」

「えっ……?」

「約束しよう。今後なにがあっても、俺は君を嫌わない。ずっと友達だ」


 我ながら臭いセリフだ――とトルフィンは思った。前世の自分ならひっくり返っても言えなかったことだ。

 けれど。

 相手は汚れを知らない幼女である。

 こんな垢まみれのセリフすら、嬉しそうに顔をあげる。


「……ほんと?」

「ああ。ほんとだ」

「……じゃ、やくそく」

 そう言って、リュアは小指を差し出してくる。


 トルフィンは苦笑して、同じく小指を突き出した。そのまま指を絡め合わせ、約束を破らないことを誓ってから、手を離す。


「……なんか、トルフィンくんってお兄ちゃんみたい……」

「えっ?」

「話し方とか、なんだか同じ歳の人とは思えなくて……」

「あ、あーそれはだな……」


 ――もっと子どもっぽい口調にしたほうが良かったか。

 でも無理だ。いまさら変えられないし、ほら、年上のほうがモテるっていうじゃないか。


「あのな、俺、実は六歳じゃねえんだよ」

「えっ……どういうこと?」

「んーすまん、うまく言えない」


 言ったところで理解してもらえるとは思えない。


「黙っててくれよこのことは。二人だけの秘密だ」

「ひ、秘密……私たちだけの……」

 リュアは嬉しそうに頬を緩ませた。


 これまで見たことのない、まさに天使のごとき笑顔。思わず見取れてしまい、トルフィンはごくりと息を呑んだ。


「わかった。秘密。やくそくね!」


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