引きこもりに地理なんかわかりません
本日の朝食ーー時間的には昼食だがーーは外で食べることになった。
ロニンがどうしてもと駄々をこねたからである。
シュンも最初は渋ったが、この一週間、ロニンは本当に頑張った。
苦手であるはずの《引きこもり》を、見事に耐えてみせた。
目標の一ヶ月にはほど遠いが、たまには外に出るのも悪くないだろう。
ロニンがずっと家にこもっていては、村の人々も不審がるおそれもある。
というわけで。
シュンとロニンはいま、村の外を歩いていた。
もちろんすぐに帰るつもりだ。
あまりダラダラすると、《引きこもり》の獲得条件を逃す可能性がある。
ーーのだが。
「シュン様!」
「シュン様!」
通りすがる村人たちがそうさせてくれない。
彼らはシュンを見つけるなり、大仰に頭を下げた。
「あのときは助けてくれてありがとうございました!」
「俺、シュン様がこんなに強いなんて知らなかったです!」
「あー……うん。そっか」
シュンにとって、彼らはほとんど記憶に残っていない。
パッパッと流れ作業的に牢屋をぶっ壊していったので、いちいち顔を覚えていないのだ。
まあ、彼が村民とほとんど関わりがないというのもあるが。
それを見たロニンが、感心したように言った。
「人気者なんだねー。お兄ちゃん」
「誰のせいだと思ってんだよコラ」
突っ込みを入れつつ、シュンはロニンの耳元でささやいた。
「その尻尾。出ないように気をつけろよ」
「わかってるってば」
ロニンの尻尾は水玉のズボンのなかにしっかりと隠してある。
これでロニンがモンスターであることは気づかれないと思われるが、彼女のことだ、いつボロが出るかわからない。シュンは厳重に注意を促しておいた。
「あー、ところで、うん」
シュンは咳払いをしつつ、村人たちに問いかけた。
「どこか、おすすめのレストランとかないかな? ぜひ教えてほしいんだが」
長年引きこもっていた彼にとって、村の地理なぞまったくわからないのであった。