王女のわがまま
セレスティアはしばらく目を閉じていたが、やがてゆっくりと瞼を開けると、静かに言った。
「うん……そうだね。その通りだと思う」
国民のために働き、国民のために尽くす。
一見して当たり前のことだ。
だがエルノスはそれができなかった。そのために《支配力》が薄れ、実の娘に殺されるという末路を辿った。
きっと辛いこともあろう。多くの人間を束ねるということは、それなりの苦労もつきまとう。でも屈するわけにはいかない。私は、もう人間の国王なのだからーー
セレスティアが静かな決意を胸に称えるのと同時に、シュンも似たようなことを考えていた。
《引きこもり》は彼の生き甲斐だ。
だが王という立場に甘んじて、ずっと家にこもっているわけにはいかない。国を立ち上げた責任を持ち、しっかりと人民を導いてゆかねばならない。それが王としての務めなのだからーー
そう決心できるくらいには、シュンも成長していたのである。
「……で、おまえはなんでこんなにすり寄ってきてるんだ」
コホンと咳払いしながらシュンは言った。
「えっ、駄目?」
「駄目ってかまずいだろ。色々考えて」
いつの間にかセレスティアは、互いの肩がぶつかりそうなくらい接近してきていた。しかも王女様というだけあって、かなり良い匂いがする。
妻子持ちとはいえ、健全なる男として、意識するなというほうが無理だ。
今更ながら、シュンはセレスティアの《ある特徴》に気づいていた。公の場ではお嬢様然とした態度だが、プライベートな時間、とりわけ心を開いた相手に対しては、かなり甘えた口を聞くことを。
「……だってさ、私もう大人なんだよ。……その、あるわけよ、有力な人からの申し込みが」
「だからなんだっての」
「嫌だよ。私……もう無理なの。あなた以外は」
「なっ……」
シュンが目を見開く間に、セレスティアはさらにすり寄ってくる。
「でも私、曲がりなりにも国王だから。いつかは誰かと結婚すると思う。だけど……せめて好きな人と恋愛くらいしたい」
「……おいおい、馬鹿言うんじゃねえよ。俺にゃ妻が……」
「わかってる! 二番目でいいから……またこうして、時々あなたとお話ししたい……」
ーーなるほど。
こりゃ確かに《わがまま》だ。どうしようもないくらいにな。




