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国王として

 弁当はそこそこのボリュームがあったが、シュンはあっという間に平らげた。


 それだけに美味だった。

 メイドが調理するご飯も悪くはないのだが、セレスティアと比べると見劣りしてしまう。彼女は幼少の頃から趣味で料理をしてきたから、どうしてもその差が現れてしまうのだった。


「今回はありがとな。マジでうまかったよ」

 シュンが珍しく素直に礼を述べると、

「そ、そこまで喜んでくれたなら、作ってあげた甲斐があるわ」

 セレスティアはそっぽを向いて顔を赤らめる。


 しばしの間、静寂が流れた。

 子どもたちの黄色い声が響いてくる。城下町の広場にて、たぶんボール遊びにでも興じているのだろうとシュンは思った。時折モンスターの声も聞こえるから、人間とモンスターの子どもが遊んでいるに違いあるまい。


 その声を微笑ましそうに聞きながら、セレスティアは柔らかな声で言った。


「人間とモンスターの共存。ほんとにできたね……」

「ああ。色々あったもんだ」

「ねえ。シュン」

「ん」

「私も王女になってから《国王》の職に就いたんだけど……変なスキルがあってね。支配力、っていうやつ」

「ああ……」


 支配力。

 シュンも国王になって間もない頃、そのスキルを授かった。そのネーミングから、たぶん国民を統治するスキルだと思われる

 統治。こう言えば聞こえはいいが、要すれば《洗脳》のためのスキルだ。便利ではあるが、同時に危険な力を秘めている。


 シュンが思索に耽っていると、セレスティアが話を続けた。


「不思議なのよね。きっとエルノスにもこのスキルがあったはずなのに、私はエルノスに完全に支配されなかった。ううん、私だけじゃなくて、他の国民たちもシュロン国に流れてきて……よくわからないのよ。それってつまり、王都を捨ててシュロン国に住んだってことでしょ?」

「ん? んー」


 このことについては、当時のシュンにとってもおおいに疑問だった。エルノスは長く《国王》の座に就いていたのだし、その支配力もかなり強力なはず。にも関わらず、セレスティアはエルノスに反旗を翻す決意をした。


 これはいったいどういうことなのか。このスキルは架空のものなのか。

 そう思いもしたが、いまのところ、シュロン国の民は反抗する素振りさえ見せない。こと政治に関して、シュンに反対意見を述べる者もまったくいないのである。誰もが《シュン様》と最上の尊敬を向けてくる。これを見れば、支配力なるスキルは確かに発動しているように思える。


 以上を踏まえ、シュンはある結論に達した。


「俺も確かなことは言えねえけど……たぶんこのスキルは、国民のために尽くしてこそ発動するスキル……じゃねえかな」

「え……?」


 目を開け、何気なく近寄ってくるセレスティア。

 ……近い近い。

 そう思いながらも、シュンは言葉を続けた。


「おまえだって、エルノスの独裁に気づいてから、忠誠心が薄れていったんだろ? だけど昔はどうだ。エルノスがちゃんと仕事してたときは、おまえは父を尊敬してたろ?」

「あ……そういえば……」

「たぶんそういうことさ。これはつまりカミサマからのお告げってことよ。私欲のために権力を使う奴は、王にはさせません……ってな」

「……カミサマ……」


 セレスティアがその言葉を反芻はんすうした途端、一瞬だけ部屋の照明が強くなったーー気がした。


「だから俺たちは忘れちゃならねえ。王の座に就いたからにゃ、必ず国民を守るってことをな」

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