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ロニンがいない? チャンスだ!

 ーー無事に帰れたらお願いが……いえ、私からのわがままがありますーー


 五年前、アグネ湿地帯にて、セレスティアはそう言った。

 そういえば、結局あの約束は果たせず仕舞いであった。シュンも国のために動き回ってきたし、セレスティアなどもっと多忙だっただろう。王都の内部争いを勝ち抜き、今度は《セレスティア女王》として身の休まぬ日々が続いたに違いあるまい。二国が条約を結ぶときも、一応はセレスティアと対面したが、プライベートな時間を過ごすことは一切なかった。


 あれから五年。

 彼女もやっと、ひとりで落ち着ける時間が確保できるようになったのだろう。だからこうして、プライベートでシュンを訊ねてきたのだ。まわりを見ても、女王を警護している騎士はいない。

 セレスティアも同じように室内を見渡しながら言った。


「そういえば、あの子……ロニンはどこ?」

「散歩に出かけてるよ。トルフィンと一緒にな」

「そう……それはチャンスね」

「は?」

「いえ、なんでもないわ」


 セレスティアはにんまり笑うと、ずんずんと部屋に入ってきた。片手に紙袋を持っている。


「お弁当つくってきたわ。一緒に食べましょ」

「お、おう」


 女王になっても、料理という趣味は欠かしていないらしい。シュンがいまだに自室にこもっているのと同じだ。


 セレスティアは弁当箱をテーブルに広げると、ゆっくりとソファに腰を落とした。さすがは女王というだけあって、ロニンにはない《気品》が感じられる。そして何故か胸元が心なしか開かれている気がする。


 ーーおかしい。

 五年前よりでかい。

 なにか仕組んでるぞ絶対。


 ーーって、なに見てんだ俺は。

 シュンはこほんと咳払いすると、同じくソファに座り込む。最上級の素材を使用しているだけあり、ふんわりとした弾力が返ってくる。


 さて、弁当の中身はなにかな……

 期待を抱きながら視線を下ろすと、さすがは女王、その期待をはるかに上回る世界がテーブルに広がっていた。なかでも目を引いたのは《ログマキジカ》という魚の味噌煮だ。滅多に捕まえることができず、なかなか市場に出ることのない魚だが、その味は見事というしかない。ほどよく脂がのっており、シュンは思わず「うめえ!」と叫んだ。


「ほんと? 美味しい?」

「ああ。さすがだよな、マジで」

「そ、そうかな」

 誉められると、ぽっと赤くなる女王であった。

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