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魔王の無双劇

 魔王と皇女の共闘。

 それに適う者は誰ひとりとしていなかった。


「はっ!」

 気合いの発声とともに、セレスティアは両手を前方に突き出す。

 瞬間、隣にいたロニンを深緑のオーラが包み込んだ。

 全ステータスを一時的に強化する魔法。セレスティアの最も得意とする補助魔法である。もともと魔王のステータスは桁外れだが、その強さにさらに拍車がかかったというわけだ。


「すごいねセレスティア……これなら負ける気しないよ」

「援護は任せて。あなたは遠慮せずに戦って」

「……うん。わかった」


 といっても、騎士たちは《敵》ではない。彼らは徹底的にエルノスを信じきっているだけであり、もともとは善良な人間に過ぎない。さすがに命までは奪うつもりはない。


 ただし、このまま無傷で放免してやろうとも思っていない。

 エルノスの命令とはいえ、彼らはシュンを取り囲み、アグネ湿地帯に送り込もうとした。殺しまではしないまでも、すこしは痛い目を見てもらおう。


 ロニンはそう心に決めると、鞘に手を添えた。

 ーーもう私は弱い子どもじゃない。

 モンスターを統べる魔王であり、妻であり、そして一児の母でもある。負けていられない。


 ロニンは小さく一呼吸すると、右足を前に出し、戦闘の構えを取った。油断なく周囲を見据えながら、奇襲してくる者がいないか探る。


「す、隙がない……」

「魔王の名は伊達じゃないか……」

 騎士たちのぼやき声が聞こえる。心なしか動揺しているようだ。


「いくよ。殺しまではしないから安心して」


 ロニンが言い放った、その瞬間。

 周囲に爆風が舞った。

 ロニンが地を蹴ったことによる現象だった。荒野の塵埃じんあいが飛び散り、騎士たちが目を覆う。


 どこかで悲鳴があがった。

 それと同時に数人の騎士が膝をつき、そのまま崩れ落ちる。鎧の防御性を丸ごと無視し、ロニンの振るった剣先が、見事に騎士の足を斬りつけたのだ。


「馬鹿な!」

「魔王はどこにいった!」


 いくら歴戦錬磨の騎士たちとはいえ、魔王ロニンのスピードにはついていけない。神速のごとく動きまわるロニンの姿を捉えられぬまま、騎士たちは言いように蹂躙じゅうりんされていく。


 まるで一方的な攻撃だった。

 騎士たちはロニンに一撃も浴びせることができない。あっという間に敵戦力はひとりになった。


「強すぎる……なんなんだ、貴様は!」

 恐慌をきたしたのか、最後に残った騎士が空に向かって奇声を発する。

「だから言ってるじゃん。私は魔王。最初からあなたたちじゃ勝ち目なんてないよ」

 言いながら、騎士の背後に回り込み、足を切り払う。いくら頑丈な鎧を身にまとっているとはいえ、魔王の、しかも強化されたステータスには関係ない。


「ま、魔王……恐るべし……」

 呟きつつ、騎士ががっくり崩れる。戦う意欲も失せたようで、立ち上がろうとする様子もない。


 ーー終わった。

 ロニンがほっと一息ついた、その瞬間。


 どこかで、紅の光線がひとつ、近くに落下した。それは地面に触れた瞬間に大爆発を起こし、業火を周囲にまき散らす。強風があたりに舞い、ロニンも思わず顔を覆う。


 気づけば、その光線はひとつだけではなかった。数えるのもはばかられる無数の光線が、次々と異なる地点へ落下しては大爆発を起こしている。


「なに……これは……」

 呆然とした面持ちで呟くセレスティアに、ロニンは確信を持って答えた。

「お兄ちゃんだ……。きっと」

「なんですって……?」

「この力には覚えがあるよ。三年前、お兄ちゃんはすごい力で魔王を倒した。あのときの力とまったく同じ……」



「な、なんだと……」

 すると、聞き捨てならぬといった形相で騎士のひとりが訊ねてきた。

膝を地につけたまま、顔だけをロニンに向けている。

「これはシュロン国の王の仕業だというのか……? シュンなる者はこれだけ常軌を逸しているというのか……?」


「そうだよ。正直いって、私でも適わないくらい」

「ま、魔王が適わないだと……?」

 騎士が大きく目を見開いた。

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