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魔王を倒した男

 ーー動けない。

 剣を地面に突き立てながら、ゴルムは立ち上がろうと懸命にもがいていた。


 長年にわたって磨きあげ、鍛え抜かれたはずの身体は、しかし意志に反してまったく動かない。膝が笑い、ずとっと転んでしまう。


 ちらりと周囲を見やると、他の騎士たちも同様の状態になっているようだ。体勢を整えるべくあがいているが、思うように動けない。

 どうやら、的確に急所を打ち抜かれたらしい。

 完全に足の動きが封じられてしまっている。あるいは麻痺の魔法でも受けてしまったか。


 だがーー

 どちらとて同じだ。一刻も早く立ち上がり、体勢を整えないことには、あの《悪魔》シュンに殺される。


 悪魔シュンーー王都に帰還した勇者アルスは、彼をそのように名付けた。魔王をも超える力を持ちながら、まったく世界を救おうとはせず、気の赴くままに振る舞う。ある意味で魔王よりもタチの悪い村人であり、だから悪魔なのだと。


 アルスによれば、ロニンが魔王に就任したのはつい最近のことらしい。数年前までのロニンは単なる《魔王の娘》であり、自分の力さえまともに扱えないひよっ子であったと。


 それが現在のように圧倒的なパワーを身につけ、新・魔王として君臨しているのは、なにか裏があるに違いないーーアルスはそう語っていた。きっと、シュンかロニンのどちらかが、前代の魔王を殺してしまったのだと。


 真実は闇のなかだ。

 アルスが嘘をつくとは思えないが、魔王を殺せる者がそうそういるはずもない。しかも当のアルスは現在、どこかへと姿を消してしまっているのだ。


 どちらにせよ、あのシュンという男、アルスでさえ手を焼くほどの人物である。一秒でも早く動かなければ、すぐにでも殺されてしまうーー


 のだが。


 いくら時間が過ぎようとも、悪魔シュンが襲いかかってくる気配はなかった。それどころか、ずっと同じ場所に立ち尽くしているようにさえ思える。


 ーーなにしてるんだ?

 疑問に思い、ゴルムが顔をあげた瞬間。

 ゴゴゴゴゴ……という振動音が、ゴルムの耳を刺激した。


 それだけではない。

 揺れているのだ。

 大地が。

 地上そのものが。


 ゴルムの周囲にあった石や落ち葉が、重力に反して浮かんでいく。

 見れば、シュンの周囲には金色の霊気がありありと迸っていた。彼のすさまじい力の奔流が、オーラとなって現象化しているに違いなかった。


 ーーまさか、これは……!

 ゴルムはたっぷり数秒間、目を見開いた。

 この事象には見覚えがある。

 数年前にも、謎の地震が突如として発生した。世界そのものが悲鳴をあげ、大きく揺れ動いた。


 あれは普通の地震ではなかった。


 勇者ほどではないにせよ、ゴルムとて歴戦の戦闘員だ。あのとき、たしかに尋常ならざる力の胎動を感じた。そして間違いなく、そのせいで大地震が発生しているのだとも思った。


 勇者アルスによれば、あれこそがシュンの力なのだという。


 当時のゴルムはそれを信じなかった。たかがいち村人が、あれほどのパワーを持っているはずがないと。


 だがーー

 勇者の発言は本当だったのだ。

 人智をはるかに超えた尋常でないパワー。

 それはまさに、あのシュンという若者から発せられている

 そして。

 ゴルムは直感した。

 彼こそが前代魔王を倒したのだと。

 いくら騎士たちが束になったところで、彼にはまったく適わないのだと。


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