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シュンにしかできないこと

 シュンは改めて騎士軍団を見渡した。

 かなりの人数だ。

 正確な人数は把握しかねるが、あれだけの敵と一人で戦ったディストは賞賛に値する。しかも死者はひとりもいない。戦闘不能になった者の多くは、気を失ったか、足を負傷している。


 ディストも頑張ったのだ。シュロン国の民として、守るべき者を守ったのだ。この国にはもはや、本当の怪物モンスターはいない。


「ディスト、おまえはもう休んでろ。あとは俺が引き受ける」

 シュンは一歩前に踏み出しながら言った。長い戦闘の代償で、ディストもかなり疲弊してしまっている。


「き、貴様は……」

 ゴルム隊長が息も絶え絶えに言った。

「馬鹿な……シュン国王なのか……?」

「まあな」

 あくまで飄々(ひょうひょう)と答えるシュンに、ゴルム隊長は顔を青くする。

「なぜだ……貴様はセレスティア様の殺害を共謀し、逃走したはず……」

「ふん。やっぱそうなってんのか」


 シュンはぼりぼりと後頭部をかいた。

 すべてはエルノス国王の思うがままと言うわけだ。自分の娘をも利用し、邪魔者を排除しようとするエルノス。《温厚で慈悲深い国王》の実体がそれだ。


 奴のことはロニンとセレスティアに任せている。うまくいけば、皇女たるセレスティアが人類のトップに立つことになるだろう。


 シュンがいまやるべきことはたったひとつ。シュロン国を守ること。それに尽きる。


 だが、それでまた相手を傷つけていては世話がない。


 ーー人間とモンスターを共存させ、争いのない世界をつくるーー

 そのためにシュンは国を立ち上げた。意味のない種族間の闘争なんて見たくなかったからだ。

なのに今度は外部の勢力がシュロン国を敵対視し、こうして戦争を仕掛けてくる。


 ただ《平和》を掲げるだけでは、国民の幸せは守れない。そのことは今回、よくわかった。


 なにか良い方法はないのか。

 他勢への抑止力となる、なにかが。


 そうして考えた結果、シュンはひとつの結論を導き出した。ざっと後ろを振り返り、自身の国民を見渡しながら、大きく声を張る。


「悪いが離れててくれねェか。ずっと遠くに」

「えっ……? で、でも国王様は……?」

 と返答したのは国民のひとりだった。

「俺ゃ大丈夫だ。余計な心配はいらねえから、とっと動いてくれ」

「は、はい……」


 国民たちはシュンを気遣いながらも、ばらばらに散っていく。ディストやミュウは最後まで残っていたが、シュンに見つめられ、無言で離れていく。


 それを見送ってから、シュンは人間軍に視線を戻した。


「おまえらも早く離れろ……って言っても、離れるわきゃねえか」

「な……なにを言ってるんだ貴様は」

「ま、見ててくれや」

 きょとんと目を丸くするゴルム隊長に、シュンは片腕を突き出した。

「はっ!」


 瞬間、シュンから発せられた衝撃波が、人間軍を残らずさらっていく。大小さまざまな悲鳴とともに、騎士たちが激しく吹き飛んでいく。数秒後、突風が収まった頃には、騎士たちはかなりの距離にまで《移動》していた。


 殺してはいない。最初から彼らの命を奪うつもりもなかった。

 ゴルムたちがシュロン国を侵略しようとしたのも、元はといえば、エルノスに命じられたからだ。そういう意味では、これはシュンとエルノスの戦い。無関係な部下たちが死ぬのは極めて滑稽だ。それに、平和を目指して建国したのに、ここで彼らを殺していては世話がない。


 だからこそ、シュンは答えを導き出したのだ。たったひとつの、解決策を。


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