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変わらぬ友情

 ーー既視感デジャヴしかないな。

 立て続けに振り下ろされる騎士の剣を避けながら、ディストはふと、そう思った。


 三年前にも同じことがあった。

 当時は《魔王の娘》だったロニンの地位を確立すべく、ディストはモンスターたちと戦うことになった。戦いの目的は陽動ようどうに過ぎず、だからディストにはモンスターを殺すことができなかった。結果的にそれは大変な精神的苦痛となった。


 同じことがまた、繰り返されている。


 敵は王都の凄腕騎士。

 シュロン国民の人間にも、彼らの家族・友人が大勢いることだろう。


 殺すことはできない。かつては人間嫌いだったディストだが、この二年半で、人間というものをすこしずつ理解し始めている。千年もの間、ずっと争ってきたけれど、それほど悪くない種族だと思っている。だから殺せない。殺したくない。


 だが。


「殺せ! 殺せー! 標的はディストだけでよい!」

 隊長ゴルムの指示によって、騎士たちは寸分の隙もなくディストに襲いかかってくる。彼らの命を絶つことは容易いが、峰打みねうちとなるとそうはいかない。心身ともに相当の苦労を強いられるからだ。


 シュンほどの者であれば、一瞬で多くの敵を戦闘不能に陥らせることができる。だがディストにはそれほどの高等技術はない。一回一回の攻撃に、かなりの集中力を要するのである。


 ーーどうして。

 どうして我々はこうも争う必要があるのだ。


 シュロン国が誕生したことで、せっかく人間とモンスターが和解できたと思っていたのに。人間も悪くない種族だと思い始めていたのに。なのに……


 結局、我々はわかりあえない定めなのか。ならばいっそ、昔のように殺してしまえば……

 その葛藤がディストの動きを鈍らせてしまっていたらしい。


「敵将ディスト、捕らえたり!」

 騎士の振りかぶった剣先が、鬱陶(うっとう)しいまでに的確に、ディストの眼前にまで迫っていた。


 ーーしまった……!


「デ、ディストさん!」

 幼い女の声が聞こえた。名は確か、ミュウといったはずだ。こんなときに人間に名を叫ばれるとはなんとも皮肉なことか。


 その瞬間だった。

「ーーったくよ、俺の領土で派手にやらかしやがって」

 聞き覚えのある男の声が周囲に響き渡った。数センチの距離にまで迫っていた刀身が、ぴたりと止まる。


 そして。

 さきほどまではなにもなかった空間に、幾何学模様が発生した。


「おお……!」

「まさか……!」

 シュロン国民にとっては何度も見た模様。国民たちが目を見開き、歓喜の声をあげる。


 続いて、シュイン、という音を響かせながら、そこにシュロン国の国王ーーシュンが姿を現した。

 彼を見て、幾ばくかの安堵感が発生したことは否めない。ディストは乾いた笑みを浮かべながら言った。


「まったく……貴様はいちいち来るのが遅いんだよ、村人め」

「うっせーな。俺ゃ忙しいんだ。昔と違ってな」

「……ならばせめて礼を言え。ここまで守ってやったぞ、貴様の国をな」

「おう。サンキューな」


 そこで二人は、いつか魔王城でやったのと同じように、ガツンと拳を打ち付け合った。

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