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セレスティアの本領発揮

「お父様。本日は大切な話がございます」

「……ほう。なんだ、申してみよ」


 ひざまずくセレスティアを、エルノスは片頬を吊り上げながら見下ろす。


昨日さくじつ、城の魔術師と思われる者たちに襲われました。奴らの魔術により、私はアグネ湿地帯に強制転移されたのです」

「アグネ湿地帯……よく生きて帰れたものだ。父として、この上なき喜びであるぞ」


 ーー白々しい。

 セレスティアは形式だけ礼を述べ、そのまま話を続けた。


「ですから、魔王ロニンはこの件とは無関係です。彼女を解放してください」

「ふふふ……なるほどのう」

 エルノスはうつむき、くくくくっと低い笑い声をあげた。

「であれば、そのような無礼な魔術師どもは吊るしあげねばなるまいな。犯人が見つかり次第、魔王は解放することにしよう」


 ーーこいつ……!

 セレスティアは小さく歯ぎしりをした。

 すべての罪を魔術師たちになすりつけるつもりらしい。どうせ暗殺を命じたのはエルノス本人のくせに。


 いつもそうだ。汚い仕事はすべて部下に押しつけ、万が一失敗したら責任を下に押しつける。他方で、成功したら自分の功績にする。

 エルノスとはそういう男だ。そうして傷ついていく部下を、セレスティアは何人も見てきた。それでいて見ないふりをしてきた。


 ーーでも、もう私は逃げない。逃げるわけにはいかない。

 徹底して外道野郎。それがエルノスなのだ。

 セレスティアは覚悟を決め、大きく、決然と言い放った。


「……あなたに王の資格はないわ。このクズが」


「……なに?」



 一瞬にして場が凍った。




「皇女様、いまなんて言った?」

「さ、さあ……聞き違いじゃ……」

 これには予想外だったのか、壁面にいた騎士たちもどよめきをあげる。


 エルノスも珍しく目を丸くして言った。

「そなた……いま、なんと言った?」

「あら、聞こえなくて? ならもう一度言ってあげるから、その汚い耳をかっぽじってよーく聞きなさい」


 セレスティアは深呼吸し、迷いなく父を睨みつけた。


「エルノス。あなたは私の知る限り、最も最低で最悪なクズ野郎です。……よって、私の手で殺して差し上げますわ」

「き、貴様……!」

 エルノスが顔をしかめたのも束の間。


 周囲の騎士たちが武器を掴み取るや、いっせいにセレスティアに走り寄ってきた。ガチャガチャというすさまじい金属音が周囲に鳴り響く。


 セレスティアは片腕をエルノスに突き出しながら、大声を張った。

「止まりなさい! 私だってそこそこな魔法の使い手です!」

 びくりと騎士たちが静止する。

「あなたたちが私を捕らえる前に、王の首を飛ばすことなど造作もありません。無駄なことはやめなさい」


「うぬ……」

 騎士たちは戸惑ったように動かない。

 それも仕方ないだろうとセレスティアは思った。王を人質に取られてはなにもできまい。


「セ、セレスティアよ……余を殺す気か」

 エルノスは険しい表情を浮かべながら、呻くように言った。驚きのあまり動けないのか、玉座から立とうともしない。

「余を殺したところで……今度はそなたが大罪を被ることになるぞ。それでもよいのか」

「ふん。エルノスさん、あんたさっき自分で言ってたじゃない」

「……なに?」

「この王城には、私の命を狙うような《無礼な魔術師》さんがいるんでしょ? あーら、偶然だけど私も魔法が得意だわ」

「うぐぐ……」


 大きく歯ぎしりをするエルノス国王。

 セレスティアは油断なく父王を見据えながら、ゆっくりと言い放った。


「年貢の納め時ね。あなたはやりすぎたのよ、エルノスさん」

「ま、待て、ぼ、ぼくが悪かった、だからーー!」

「往生際が悪いわね! 死ぬときくらいは王らしくしなさいよ!」

「ひ、ひいっ! ひい!」


 エルノスがたっぷりに目を見開いた、その瞬間。

 セレスティアの片手から、すさまじい速度で深紅の可視放射が放たれた。


 ーーガシュ、と、

 それは見事にエルノスの頭部を通過していき。

 人類に長く君臨し続けた王者の首はいともたやすく吹き飛んでいった。

 その衝撃的な結末を、謁見の間にいた誰もが、ぽかんと口を開けながら見つめていた。

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