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親子喧嘩

 建前上、セレスティアは死んだことになっている。《最悪のモンスター・魔王ロニン》によって殺害され、シュンは逃亡したーーと。

 それがエルノス国王がでっちあげたシナリオである。


 だからセレスティアとロニンが正面切って王城に姿を現したとき、人間たちは激しく驚愕した。

 なにしろ片や死人、片や捕らわれているはずの犯罪者。その二人が手を取り合っているのだ。事情を知らない者にとっては驚きの光景であった。


「セ、セレスティア様、よくぞご無事でーーいえ、なにをされているのですか!」

 近くにいた騎士が、息急き切って皇女に詰め寄ってくる。

「そこにいるのは魔王ではありませんか! いますぐお逃げください! こやつは私が……!」

「構いません」


 セレスティアは片手を突き出し、騎士を静止する。


「この人は私の大事な友人です。同じ国の民です」

「お、同じ国の民……?」

「いいからどきなさい。私の言うことを聞けないのですか」

「は、はっ……し、失礼致しました!」


 騎士がびしっと敬礼し、セレスティアに道を開ける。皇女は深く頷くと、堂々たる貫禄で王城を突き進む。

 目指すは謁見の間。エルノスが待ちかまえている場所である。

 他の騎士や親衛隊たちはなにも仕掛けてこない。魔王ロニンを前にして、さすがに攻めあぐねているようである。セレスティアひとりだったら、事情を知っている親衛隊たちに取り押さえられているところであった。


 ーーこれで、すべてが終わる……

 一歩一歩を力強く踏みしめながら、セレスティアは深い感慨に耽っていた。


 ーーエルノスお父様。

 昔はあなたを尊敬しておりました。父としても、また国王としても。

 けれど、あなたは権力に縛られすぎた。

 国は、権力者の権威を保つためにあるのではありません。国民ひとりひとりの生活を守るのが王族の勤めです。それを忘れてしまったお父様には、せめて娘の私が……


「大丈夫?」

 後ろを歩くロニンが、気遣ったように服の裾を引っ張ってくる。セレスティアはちらと魔王に振り向き、小さな笑みを浮かべた。

「私は大丈夫。もう覚悟を決めたから」

「そっか……」


 ロニンは小さく返事をすると、続けて言った。


「私も……三年前、お父さんーー魔王と敵対したからわかるよ。すごく辛いけど……頑張ろう」

「あらそうなの。面白い偶然ね。今度、その話聞かせてよ」

「うん。あなたは私が守るよ」


 魔王に言われるとかなり心強い。シュンもそれを見越して彼女を護衛につけたのだろう。

 セレスティアはもう一度ロニンに微笑みかけると、再度、歩みを再開した。


 ほどなくして目的地に到着した。

 眼前の細い通路を抜ければ、すぐに謁見の間に出る。

 本来であれば、その通路の左右には騎士が構えているはずだ。だが、いまに限っては誰もいない。エルノスの命令か。


 セレスティアは大きく深呼吸すると、通路に足を踏み入れた。激しい自分の息づかいを意識しながら、一歩、また一歩と、謁見の間へ歩んでいく。自分の家を歩いているだけなのに、驚くほど緊張していた。

 それが伝わったのか、後ろのロニンがぎゅっとセレスティアの手を握ってきた。


 数秒後、二人は通路を抜け、謁見の間に到着した。

 驚くことに、左右の壁面には騎士たちがずらっと構えていた。みなが槍や剣を携え、いつでも戦闘に入れるようにしている。相当警戒されているようだ。


「セレスティア……気をつけて」

 ロニンが小声で囁いてきた。

「二階のバルコニーにも、昨日とは比べ物にならないくらいに騎士がいる。危ないと思ったらすぐに逃げて」

「……ええ。わかったわ」


 言いながら、セレスティアは玉座に座る父王ーーエルノスを見据えた。

 クローディア王立首都のトップにして、人類の王。

 彼もわかっているようだ。自分の娘が喧嘩を仕掛けてきたことに。

 セレスティアは片膝をつき、国王へ向けて声を張った。


「セレスティア、ただいま帰還致しました」

「……ふむ。後ろにいるのは魔王ロニンか?」

「ええ。どうやらロニンについて、犯罪者との誤解が広まっているようです。それを解くため、彼女にも同行をお願いしました」


 ーー口から出任せだが、一応の理由にはなるだろう。

 エルノスはうむ、と頷くと、片腕を突き出し、指示を発した。


「ならばセレスティアのみ、十五歩ほど前に進み出よ。ロニン殿はその場で待機してもらいたい」

「待機……?」

 ロニンがちらっとセレスティアを見上げた。

「失礼なのは承知の上だ。だがロニン殿の嫌疑はまだ晴れていない。念のため、余と距離を取っておいていただきたい」

「……な、なるほど」


 エルノスの発言は徹底して正論だ。ロニンとセレスティアを引き離すのが目的だろうが、ここは従うしかあるまい。


 セレスティアはロニンに目配せをし、指示の通り、十五歩のみ進み出た。

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