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三人の誓い

 王城の地下牢。

 シュンはワープの指定先をそこに定めた。

 あらゆる物事を想定した結果、ロニンが捕らわれている可能性が高いと判断したからだ。


 もちろん、シュン自身は地下牢を訪れたことがない。だからセレスティアに《地下牢に近い場所》を教えてもらい、そこに転移した。


「な、なんだ貴様いきなり現れーーがはっ」

 いきり立った看守を手刀で気絶させ、シュンは牢の向こうの妻へ目を向けた。

「ロニン。待たせたな」

「お、お兄ちゃーー!」

 と言いかけ、隣にセレスティアがいることに気づいたのか、

「シュンさん!」

 と言い直す。


 その際、彼女が牢屋をぶち壊すのではなく、こちら側に《ワープ》してきたのは賢明だろう。破壊音で王城の者に気づかれる恐れがあった。

「会いたかった……会いたかったよぅ」

 そのまま抱きついてくる魔王さん。小さな見た目に反して、大きな二つの膨らみがシュンの腰に当たる。


 ーーうん。超柔らかい。

 シュンは苦笑いしながら、妻の頭を優しく撫でてやった。


「ばかやろ。王妃がそんなんじゃ、国民はついてこねえぞ」

「いいじゃん。いまくらい」


 言いながら、シュンの胸に顔を埋めてくる。

 ーーかわええ。

 その仕草には、さしものシュンもそう思わざるをえなかった。だから彼女を認め、結婚を申し込んだのである。もちろん外見だけで決めたわけではないが。


 その瞬間。

「…………」

 シュンは気づいた。

 シュン夫婦を、セレスティアが切なげに見守っていることに。我慢をため込んでいるかのように、身をぶるぶる震わせていることに。


 ーー無事に帰れたらお願いが……いえ、私からのわがままがありますーー

 セレスティアはさっきそう言っていた。

 その《わがまま》が何なのか、シュンにはまだわからない。

 いずれ、すべてが決着したらこちらから聞かねばなるまい。彼女の願いを。


「あ、違う! こんなことしてる場合じゃないんだ!」

 はっとしたようにロニンは顔を上げ、シュンと目を合わせた。

「……ど、どうしたんだ?」

「さっき看守から聞いたんだけど……大勢の騎士が、シュロン国に向かってるって……!」

「…………」


 シュンは大きく息を吸い、そして吐いた。

 ーー戦争。

 頭のどこかでは、その可能性が高いと薄々感じていた。


 違和感があったのだ。あのとき、客室に忍び込んだ魔術師たちは、シュンだけでなくセレスティアも狙っていた。だからシュンはすぐにセレスティアを庇いに行った。引きこもりレベル999の彼が魔法など喰らってもさしたるダメージにはならないが、セレスティアにおいてはその限りではない。


 その理由はつまり、こういうことだったのだ。

 魔王ロニンを《セレスティア殺人犯》に仕立て上げ、それを口実にシュロン国を滅ぼしにかかるーー


 完璧なシナリオだ。

 シュンをアグネ湿地帯に追い込むこともできるし、シュロン国も壊滅できる。エルノス国王は自分の地位を守るために、娘を犠牲にしたのだ。


 だが、狡猾な王にもひとつ誤算があった。

 奴は明らかにシュンを甘く見ていたのだ。いくら人類未踏の地とはいえ、そこに追いやっただけでシュンは死なない。引きこもりレベル999の凄さを、奴はよくわかっていなかったのだろう。


 付け入る隙はそこにある。

 セレスティアも同じことを考えていたらしい。両拳をわななかせ、小さく呟いた。


「ひどいわ……エルノス……!」

 その娘に、父を尊敬している様子はいっさいなかった。

 セレスティアはシュン夫婦を見つめるや、決然たる瞳で言った。

「私がエルノスと蹴りをつけてくる。もう許せないわ」

「……そうか」


 シュンは静かに頷くと、ロニンの頭にぽんと手を置いた。


「なら、ロニンはセレスティアに協力してやってくれ。なにかあったとき、おまえがいれば安心だ」

「い、いいけど……シュンさんは?」

「決まってんだろ。自分の国を守ってくる。それが王ってもんだ」


 がつんと拳を打ち付け、シュンはにんまりと笑ってみせた。

「幸運を祈る。ーー死ぬなよ、おまえら」

「「はい!」」

 魔王と皇女は小声で、そして力強く、国王の命に頷くのであった。

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